Research Project
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
造血幹細胞移植では、しばしば上部消化管の粘膜傷害が生じ、移植片対宿主病(GVHD)によってさらにその傷害が増悪し難治性となる。上部消化管の粘膜傷害は、移植治療に必要な薬剤の内服困難、嘔気・嘔吐による摂食困難、咽頭痛や腹痛につながる。しかし、これらに対する根本的な治療は一部の特異的な治療を除いて存在せず、現状は対症療法によって症状の緩和を図るのみであった。今回申請者は、胃の粘膜傷害における組織幹細胞傷害の変化を検討し、粘膜傷害の難治化をもたらしている可能性をマウスモデルを利用して検討した。まずは,マウス同種骨髄移植後のGVHDで胃の粘膜上皮の組織幹細胞の傷害が生じるか否かを検討するため、C57BL/6 (B6: H-2b)マウスをドナー、B6D2F1または B6D2F1-Lgr5-EGFP-creERT2 (H-2b/d)マウスをレシピエントとするMHC不一致骨髄移植を行った。レシピエントに放射線照射を行った後にドナーから骨髄移植を施行した。移植されたドナーT細胞はレシピエントの臓器を傷害しGVHDを発症させ、腸管GVHDが移植後5日目より認められた。胃粘膜が傷害を受けることを確認し、骨髄移植を行ったマウスの胃の病理標本を作成し、胃粘膜の組織幹細胞(LGR5陽性)をLGR5陽性EGFPの免疫染色を行い、評価した。その結果、胃幹細胞は放射線照射では傷害されなかったが、GVHDによって著明に傷害された。GVHDをもたらすドナーT細胞の免疫染色も行い、胃幹細胞が存在する腺窩底部に優位にドナーT細胞の浸潤が認められることを確認した。以上より、GVHDによる胃粘膜障害は、胃幹細胞の傷害も発生することにより難治化している可能性を見出した。