Budget Amount *help |
¥4,700,000 (Direct Cost: ¥4,700,000)
Fiscal Year 2008: ¥2,700,000 (Direct Cost: ¥2,700,000)
Fiscal Year 2007: ¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
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Research Abstract |
本研究の目的は大きな揺らぎが存在する媒体中での高分子挙動を理論的に調べる事であるが, 昨年度に行った, 一成分溶媒の気-液臨界点近傍および二成分混合溶媒の液-液相分離臨界点近傍での高分子鎖の解析に引き続き, 今年度は, 電解質水溶液中でのDNA鎖の自己凝縮転移に関する研究を行った. DNA鎖は電解質水溶液中において, 負に帯電した荷電高分子鎖となり, 鎖内のクーロン反発によって, ランダムコイルを形状する. この状態に, 三価ポリアミンであるスペルミジン(SPD^<3+>)を数から数十mM程度添加すると, 環状コイル形状へ自己凝縮転移する現象が観測されている.また, 温度変化に関しては, 低温でランダムコイル形成をとるDNA鎖は, 温度上昇に伴い環状コイルへ自己凝縮転移する観測結果が報告されている. 一般に電解質水溶液中での荷電高分子鎖(DNAの粗視化モデル)のブラウニアン動力学法では, 水は連続誘電体とし, イオンは荷電粒子としてモデル化する.このモデルにおける自己凝縮転移のメカニズムとしては, 多価イオンのイオン強結合による電荷秩序状態の形成が考えられるが, 水を露に考慮しないこのモデル化では, 自己凝縮転移を再現する事は出来なかった. また, 温度変化に関しては, 温度の上昇により慣性半径が増加する(実験とは逆の)結果が得られた. そこで我々は, タンパク質の天然構造の安定性において重要となる疎水性相互作用に着目し, 水の凝集性液体としての性質(強い界面張力)を考慮した電解質水溶液モデルを構築した. この粗視化モデルに対して, 密度汎関数理論(DFT)に基づく液体論的手法を用いたマルチスケールシミュレーション法を適用し, 荷電高分子鎖(DNA鎖)の自己凝縮現象について解析を行った.その結果, SPD^<3+>の添加および温度上昇に伴う自己凝縮転移を定性的に再現出来る事が示された.また, 溶媒和自由エネルギーの解析から, SPD^<3+>の添加および温度上昇により, 溶媒和自由エネルギーが大きく上昇する事が分かった.これらの結果から, (a)SPD^<3+>の添加に伴う疎水性相互作用の強化, (b)温度上昇に伴う水和エントロピーの増加に起因した疎水性相互作用の強化, が電解質水溶液の貧溶媒化を導き, これが自己凝縮転移の駆動力となる事が示された.本研究で考慮した電解質水溶液における水の寄与は, タンパク質やコロイドの塩析に関する現象を記述するのに必要不可欠であり, ソフトマター物理においても重要な要素の一つであると考えられる.
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