Research Abstract |
平成19年~20年度科学研究費(基盤研究C)課題 : 「血液透析患者の自己管理行動に影響する要因」において, 研究の枠組み1の通りに従い研究を進めた. 明らかにしたい課題は, 1. 医療従事者サポート, 家族サポート並びに健康行動に対する自己効力感.が血液透析患者のセルフケア行動に与える影響. 2. ソーシャルサポートが血液透析患者のセルフケア行動と精神的健康に及ぼす影響. 3. 血液透析患者の精神的健康の実態と血液透析患者の精神的健康に影響を与える要因~血液透析年数による比較~. 4. 医療従事者・家族サポートが血液透析患者のセルフケア行動と透析指標に及ぼす影響. 5. 最終的には, 概念枠組みのとおり各変数間の関係性を明らかにすることであった. 研究1の医療従事者サポート, 家族サポート並びに健康行動に対する自己効力感が血液透析患者のセルフケア行動に与える影響では, 家族および医療従事者からのサポートは, 自己効力感を介してセルフケア行動に間接的な影響を与えることが明らかになった. このことは, 本研究の仮説を支持することとなり, 患者のセルフケアの対する効力感を高めることは, セルフケア行動の実施と定着につながる. セルフケアに対する高い効力感を維持するためには, 家族や医療従事者からの支援が得られるような環境の整備が重要である. また, 男性患者と比べて, 女性患者(特に後期高齢者)が受領している家族からのサポートは少なかった. このことは後期高齢者に独居者が多いことを反映, 後期高齢者女性に重点をあてた介入の必要性がある. カリウム・リン・塩分・水分の摂取量の制限について, 「とても/まあまあよくできた」と回答した患者の割合は約6~7割, 適度な運動については5割を下回っていた. このことから, 今後, 食事・水分摂取量の管理, 適度な運動の定着を図っていくことが課題である. 研究2のソーシャルサポートが, 血液透析患者のセルフケア行動と精神的健康に及ぼす影響に関する研究では, 血液透析患者の精神的健康を良好に保つためには, ソーシャルサポートのうち, 行動に対するサポート(道具的サポート)が有効であり, 情緒的なサポートは有効でなかった. このことは, 医療従事者はその特徴を踏まえ血液透析患者の精神的健康について有効な支援が得られるような環境の整備が必要である. 研
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究3の血液透析患者の精神的健康の実態と血液透析患者の精神的健康に影響を与える要因~血液透析年数による比較~に関する研究では, 1. 血液透析年数16年以上の人は, 合併症や身体症状が悪くうつ傾向にある. 2. 血液透析患者の精神的健康に影響を及ぼしているマイナス要因は, 倦怠感, 頭痛, 食欲不振, などの身体症状や, 関節痛などの合併症であり, プラスの要因として, 自己効力感, 医療従事者サポートである. 3. 精神的健康に自己効力感が影響しているのは, 透析6-15年の患者であり, 自己効力感が高ければ, 精神的健康は良好の方向に作用する. 4. 医療従事者サポートの受領を高く認知している人は精神的健康が良好である(6-15年). 5. 血液透析年数1年以下の透析導入期の患者は, 透析による「倦怠感」などの症状が精神的健康に影響を与えていた. 特に血液透析患者の50.3%の人が, 神経症的傾向にあり, 20年前と同じ傾向が見られた. 以上より, 血液透析患者の精神的健康は約50%の人が神経症的傾向にあり, 約20年前の結果と現在も同じ状況にある. 透析年数16年以上という長い透析歴を持つ人の中で, 年齢的にみると, 45~54 歳の人が神経症的傾向が強い. 特に精神的健康と16年以上という長い透析歴との関係を見た研究は過去になく, 新たな発見と言える. また, 75歳過ぎて透析開始となった後期高齢者は, GHQ得点が高く, うつ傾向にあることが明らかになった. 透析導入は, 多くのセルフケアに向けての課題をクリアできるように支援する必要があるが, これらの指導は, 患者の年齢, 心理状態, 受容段階を見極め適切な時期に行う必要がある. また, 高齢者の透析導入は, うつ傾向に導くことが明らかになったため, この場合も家族や医療従事者サポートが必要となる. また, 血液透析年数別に見た背景要因と精神的健康との関連は, 「透析1年以下」は, なれない透析後の倦怠感が精神的健康を低くしており, 導入期, 安定期へと透析の各治療段階で起こりうるさまざまな身体症状や合併症について説明し, 軽減させるためのケアについて医療従事者のサポートが必要であろう. また, 「2-5年」群は比較的精神的健康が安定している. 「6-15年」群は比較的安定しているが, セルフケア行動に対する自己効力感を高く維持するために, 医療従事者の支援が得られるような環境の整備が必要である. 「16年以上」群は, 身体的な自覚症状や合併症(関節痛)があるため, 患者へのサポートが非常に重要な時期である. 研究4の医療従事者・家族サポートが血液透析患者のセルフケア行動と透析指標に及ぼす影響に関する研究では,1. 医療従事者サポートの下位因子「病気行動への説明・助言サポート」が自己効力感に影響を与え, 情緒的サポートは自己効力感には影響を与えない. 2. 家族サポートについても, 「疾患に対する行動的サポート」が有効であり, 情緒的励ましは効果がなかった. 3. ソーシャルサポートは, 健康行動に対する自己効力感を通じて間接的にセルフケア行動に影響をもたらすことが明らかになった. このことから医療従事者のサポートのあり方, 看護介入の指針が得られたこと, 医療従事者は常に腎不全や血液透析に関する実践的な知識を持ち, 患者からの相談に, いつでも対応助言できる態勢を整えることが必要であることの示唆を得られた. 研究5は血液透析患者の自主管理行動(セルフケア行動)に影響する要因に関する研究では, 概念枠組みのとおり各変数間の関係性を明らかにすることであった. 医療従事者・家族サポートは, 自己効力感を介して, セルフケア行動を高め, セルフケア行動の高い人は, 身体症状や合併症の訴えが少ない傾向にある. 医療従事者サポートは患者の精神的健康を高め, 身体症状の低い人は精神的健康が高い事が検証された. この血液透析患者の自主管理行動に影響する要因の関係性を明らかにした研究はなく, この結果から, どの部分にどのような働きかけが必要であるかが理解できる. Less
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