Research Abstract |
研究の目的:特定地域でのクマの食物量と分布の変動に対し,クマの行動がどのように変化するのかについて,エサ食物のフェノロジー調査と共に,最新のGPSテレメトリー器機を用いて,クマの行動を個体の行動レベルで明らかにする研究を行うことである。 研究方法:自家製バレルトラップを用いてツキノワグマを学術捕獲し,GPS首輪を装着後に再放逐した。不動化時には体計測,採血,体脂肪量計測を行った。GPS装着個体の秋期の集中利用域の算出と踏査を実施し,クマの利用食物の毎木調査を行った。堅果結実量を定量的に測定すると同時に,堅果フェノロジーも定点を設けて毎木調査を行った。 研究成果:延べ13個体を学術捕獲し,その内9個体にGPS首輪の装着を行った。2006年からの継続追跡個体と併せ,2007年のGPS追跡個体は計13個体であった。 2006年とは異なり,13個体中9個体は9月に入っても他地域への大きな移動を行わずに足尾地区にとどまった。残留個体の秋期集中利用域14箇所の踏査を行った結果,ミズナラが優先する林であることが確かめられた。利用標高については,夏期よりも秋期に高標高地を利用する傾向が認められた。堅果不作年の2006年には,夏期よりも秋期に低標高地を利用する事例が認められており,2007年とは異なる結果となった。堅果豊凶調査の結果では,ミズナラ=並作以上,コナラ=並作,ブナ・イヌブナ・クリ=凶作で,ミズナラは足尾地域内に豊作地点が認められた。クマによる実際のミズナラ堅果の樹上利用時期は,9月下旬から10月中旬の短い期間で,10月以降は落下堅果の拾い食いに移行することが確かめられた。この結果は,実際のミズナラのフェノロジーに一致するものであった。 以上のことは,クマの秋のstaple foodがミズナラであると仮定するならば,ミズナラが凶から並作であった2006年と比較して2007年秋期は多くのクマが人間生活空間周辺に大きな移動を行わずに,足尾地内に留まった結果を説明するものと考えられた。
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