Research Abstract |
本研究では,山形県米沢市に位置する酸性河川(松川)において水質,底質および水生昆虫群集に関する現地調査を行い,多変量統計的手法を用いて酸性水域において特徴的な環境因子が水生昆虫群集の構造に与える影響について検討した.本研究から以下の知見が得られた. 松川上流部ではpHが4.5程度であり,河床堆積物中のAl含有率が高く,河床堆積物中のChlorophyllα量が低く付着藻類の生息が抑制されていることが明らかとなった.松川上流部の河川水中に存在する溶解性AlはpHの上昇に伴って多核Al加水分解生成物を経て不溶性Alに形態が変化し,河床に堆積しているものと考えられる.申請者は以前の研究において多核Al加水分解生成物が付着藻類の増殖を阻害することを明らかにしており,松川上流部において多核Al加水分解生成物が生成し,それらが河床に生息する付着藻類の生息に悪影響をおよぼしている可能性がある. また,中流部以降では硝酸イオン等の栄養塩類および塩化物イオンが一般的な渓流河川に比べて高濃度で存在していた.松川は中流部において農業地帯,下流部において米沢市街地を流下しているため農地および家庭からの廃水流入が下流部における汚濁の要因と考えられる. 松川における水生昆虫群集は,上流部においてその種数および個体数が非常に少なく,貧弱な群集構造を形成しており,流下に伴ってChironomidae(ユスリカ科)を中心とした多様な群集構造へと遷移していくことが明らかとなった.松川上流部における水生昆虫群集は低pHおよび高濃度の酸等の水質的なストレスと共に付着藻類に代表される餌資源の不足を反映した特徴的な水生昆虫群集が形成されているといえる. 松川上流部において中和処理等によってpHを5以上にし,河川水中のAlを除去することによって水環境の大幅な改善が期待できることが示唆された.
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