Project/Area Number |
19K00138
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01050:Aesthetics and art studies-related
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,380,000 (Direct Cost: ¥2,600,000、Indirect Cost: ¥780,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2020: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | Franciscus Junius / 『古代の絵画についての三冊』(1638) / エナルゲイア(enargeia) / 演示的レトリック / パトス / 情動 / モノ / レンブラント・ファン・レイン / 『古代の絵画についての三冊』(1638) / 発想 / 配列 / オブジェクト指向存在論 / 騙し絵 / 展示 / 投影 / クンストカマー / 錬金術 / 解剖 / 検尿 / ゴッドフリード・シャールキン / 風俗画 / イソクラテス / レトリック / 視覚レトリック / 17世紀オランダ / 潜在的なもの / 室内画 |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は遠近法を基礎としてきた既存の視覚認識を刷新し、騙し絵が持つ視覚の潜在的な生成力をレトリック理論として抽出することである。17世紀オランダで生産された騙し絵と室内画を中心に、視覚(「見えること」の範囲、主観・認識の条件)のレトリックを潜在的なものの投影構造として分析する。遠近法箱等の技術が投影構造を通して可能とする視覚と、主客の関係を可能とさせる視覚経験の条件を並置させることで、視覚に組み込まれたレトリックの力を抽出する。投影構造は潜在的な視覚経験を生産すると考えられる。この生成される視覚をレトリカルな構築物として、その力を17世紀の文化・思想背景と共に考察していく。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度も現地調査に行けなかった為、17世紀オランダ芸術論の文献読解を集中して行った。 フランシスカス・ユニウス(Franciscus Junius)の『古代の絵画についての三冊』(1638)(以下『古代の絵画』)及びサミュエル・ファン・ホーホストラーテン(Samuel van Hoogstraten)の『絵画芸術の高等画派入門』で重要な「エナルゲイア(enargeia)」と「情動」概念を中心に読み進めた。その結果、17世紀の絵画論における古典レトリックの新たな重要性を確認した。 ギリシア・ローマ古典から芸術論を抽出し展開する『古代の絵画』では、絵画が持つ迫真性の論拠がレトリック論に求められる。古典では修辞に分類されるエナルゲイアだが、ユニウス達は物事を鮮明に表現する言葉の文彩を超えた、言葉では表現し切れない表象の現前化において情動が生じる点を重視して絵画論に領有している。 更に、17世紀における絵画論が、アリストテレスの『弁論術』について現代では一般的に重視されている説得の技術とは異なる読みがなされていることを見出した。その絵画論はアリストテレスが重視しなかった演示的弁論とパトスの視点から、技術的な手引きとして軽視される『弁論術』第三巻を中心とした読み直しになっている。一般的に着目されてこなかった絵画における視覚の問題として情動が重要であることがユニウスを読むことで理解でき、その視点を基に絵画分析を行うことで絵画の中に組み込まれている視覚レトリックの核心の1つとしてエナルゲイアと情動の問題を抽出することができた。その際、ユニウス達が想定する画家の一人としてレンブラント・ファン・レインの諸作品、とりわけ神の崇高な実在が描き込まれた『アブラハムの犠牲』(1635)を手がかりに分析を進めた。 この成果の一端は『モノと主体のコミュニケーション論』の1章として出版される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していた資料収集と現地調査は、COVID感染状況を考慮して2023年度も断念した。基礎疾患があり未だ海外出張が不安な状況なので、現地調査ができておらず、分析対象となる作品の収集と検証については、昨年度からの大幅な進捗は見られない。 現地調査によって分析可能な絵画を探すことも一部想定していた当初の予定を変更し、国内で入手可能な文献調査を中心として17世紀の絵画論とレトリックの関係を作品と共に解き明かすことを軸にした計画に練り直すこととし、文献資料を読み直している。
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Strategy for Future Research Activity |
COVIDの状況次第で慎重にならざるを得ないこともあるが、今年度はできるだけ現地調査に赴けるように準備をしていく予定でいる。 2023年度に確認された情動の問題はユニウスだけでなくファン・ホーホストラーテンも論じているが、同時に投影についての図版を残しているファン・ホーホストラーテンが情動と投影の問題をどのように考えていたのか、今後は文献と彼が残した図版を詳細に検討していく。そこから、17世紀の絵画論でレトリカルな騙し絵に組み込まれた構造としての投影の根拠となり得る議論を抽出することを試みる予定である。 当研究はコロナ禍により3年の研究計画延期を受けた。本年が最終年度となるので、限られた日程で可能な計画に絞り込んで実施する。当初の計画では網羅的な室内画の検証を行う予定であったが、残された1年という期間中にできることとして、ファン・ホーホストラーテンに焦点を当てた絵画と資料の調査をする。ファン・ホーホストラーテンの『絵画芸術の高等画派入門』の図版と言及される作品を中心に、そこで論じられる「鑑賞者の分有(beholder's share)」についても更に検討を加え、絵画のレトリック論を再構築していく古典の手がかりを探していく。同時に、アリストテレスの『弁論術』等の古典レトリック論の文献を17世紀の芸術論が重視する演示的レトリックから逆照射して、レトリックを弁論術ではなく新たな哲学的概念として再解釈することを試みたい。
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