「死者との対話」-ケルト文化から見たH.ブロッホ『誘惑者』の文学と政治
Project/Area Number |
19K00468
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
桑原 聡 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (10168346)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2021: ¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | ヘルマン・ブロッホ / 群衆狂気論 / 人権 / 地上における絶対的なもの / 『誘惑者』 / ナチズム / 回心 / ケルト文化 / 金・金鉱 / ドルイド / 誘惑者 / 黄金 / 支社 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、『誘惑者』におけるケルト神話の役割を明らかにし、ブロッホにおける「死者との対話」の意義を解明し、その上で、ヘルマン・ブロッホの著作全体における神話・神秘主義の意義を解明する。本研究では、さらに、彼の政治思想を神秘主義の観点から捉え直すことを目指す。すなわち神秘主義における「神秘的合一」unio mysticaに端的に表される「調和」がブロッホの思考の根底にあり、彼の政治思想もそのような「調和」を現実世界に実現しようとする手段として考えられているのではないかと予想される。この二点を本研究では明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度はH.ブロッホの政治哲学思想をより明確にするために、第一次世界大戦後からナチズムの時代に至る時代の民主主義擁護論を検討した。対象は、E.トレルチ、E.ブロッホ、H.ケルゼンである。トレルチとE.ブロッホが、差異はもちろんありながら、民主主義と人権の根拠を自然法に求めたのに対し、ケルゼンはそれを形而上学的として排しそれを「人間の魂の究極的な根源」すなわち「個人を社会に敵対させるあの反国家的原始本能」(『民主主義擁の本質と価値』18頁)に見る。H.ブロッホは彼らに対し人間は「神の似姿」であることにより「絶対的自由への希求」(SW. Bd.12.S.462頁)を与えられておりそのことによって「自然とその秩序」を超越するのであり、「プロメテウス的義務」(同126頁)を負うとする。 トレルチ、E.ブロッホが理解する「自然法」は、それが理性という神の法則に基づくというものである。「純粋法学」を提唱するケルゼンもまた「究極的な根源」という表現を使用していることから推察できるように、彼らは相対主義を脱し絶対的価値から人権を根拠付けようとする。H.ブロッホも同じである。しかしながらH.ブロッホは「自然法」という概念に代わって「プロメテウスの火」という比喩を好む。ゼウスに反逆し人間に火をもたらしたプロメテウスに因む。すべての権威を疑い自らの自由を求める人間の不屈の精神を言い表すための比喩であるが、また「地上における絶対的なもの」の節で触れられているように、自然法という語が「神に由来する」超越性を十分に表現しえていないという批判も込められている。(同472頁) トレルチ、E.ブロッホ、ケルゼンの法思想と比較考量することによって、人間が神の似姿であるとし法源が神にあるとするH.ブロッホの法思想はより闡明にその内容が把握されるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度はH.ブロッホと同時代に生きたオーストリアの法学者H.ケルゼンの民主主義擁護論を検討することによってブロッホの政治・法思想をより明確にする予定であった。研究を進める内にやはり民主主義を支持した、同時代の神学者・宗教学者E.トレルチ、思想家E.ブロッホの法思想を考察の対象とすることによってH.ブロッホの政治・法思想の輪郭をさらに鮮明にすることができることに思い至った。成果は「研究実績の概要」に記した通りである。 それ故おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、『誘惑者』最後近くに描かれる「ギソン母さん」と殺された孫娘イルムガルトとの「死者との対話」の意味を明らかにし、この作品とブロッホの『群衆狂気論』との関連を明確にし、両者が未完に終わった理由を解明する。 Covid-19のために2年間延期せざるをえなかったワークショップを開催し、研究代表のテーゼの妥当性を研究者との議論を通して再検討し、論文執筆の準備をする。
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Report
(4 results)
Research Products
(6 results)