軌道自由度を有する分子性超伝導体における電子対形成の研究
Project/Area Number |
19K05405
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 32020:Functional solid state chemistry-related
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 貴 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (20511017)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 分子性伝導体 / 分子軌道自由度 / 分子分光 / 高圧 / 分子性超伝導体 / 一軸圧縮 |
Outline of Research at the Start |
超伝導には、永久電流を担うための弱い電子対を形成する結合力が必要である。一方で、電子を引き離す反発力による磁気的効果も無視できない。本研究では、分子性超伝導体を用いて、結合力と反発力が両立できる「からくり」を解明する。分子性結晶の超伝導体は、HOMOとLUMOの準位が近いので、軌道自由度が存在する。例えば「HOMOは結合力を担い、LUMOは反発力を担う」というように、互いの役割が独立している。分光学的手法による結合力と反発力の定量化を行うことで、弱い電子対の形成に適した条件を見出す。また、結合力や反発力を選択的に促進させることで、分子性結晶に複合的機能を付与できるのか試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
分子性物質における超伝導を始めとする伝導性の発現条件を探るため、電子-電子間斥力と電子-格子相互作用(格子歪みによる電子同士の引力)を実験観測量から評価できるのか検討する研究である。本研究では、分子性導体を「A: 分子の二量体化が最も弱い系、B: 弱い二量化を示す系、C: 顕著な二量化を示す系、D: 結合に近い二量化を示す系、E: 単一成分系」のグループに細分して、分光学的手法により斥力と引力にまつわる量を求める。昨年度までの移動制限による影響と、装置トラブルと療養を行ったため、研究期間の延長を決断した。そのため、今年度はC・Dを優先的に研究した。 Dに属するMe4Q[Pt(dmit)2]2(Q = N, P, Sb)の二量体における軌道準位を、近赤外分光により確定させたので論文発表した。高温の金属相ではHOMO由来の反結合性軌道が半充填バンドを形成する。中心金属がPdの場合とは違い、金属-半導体転移において軌道準位の入れ替わりが起こることで、価電子は斥力よりも引力の影響を受けるようになる。低温の半導体相では、LUMO由来の結合性軌道に価電子が収容され、-2価の二量体が生成することが判明した。 圧力中の分子性伝導体において斥力と引力を評価できるように、ダイヤモンドアンビルと液体媒体を利用した偏光赤外スペクトルを測定する方法の開発を行い、学会発表した。赤外光を透過するtype-IIaダイヤモンドだけでなく、ナノ多結晶ダイヤモンドを使っても一部の分子内振動であれば観測可能である。 また、Cに属するκ-型BEDT-TTF塩や、Dに属する X[Pd(dmit)2]2(X=1価の陽イオン)において、斥力と引力を評価できるように、実験データの解析法を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヘリウム供給装置の修理、本申請者の療養、および、これまでの移動制限による影響のため、A・Bの研究を停止してC・Dの研究を中心に行った。 Dに属する物質では、フェルミエネルギー近傍に複数の軌道が存在するので、伝導性や磁性に影響を与える軌道を先に判定してから、引力や斥力を評価する必要がある。2021年度に発表したMe4Sb[Pt(dmit)2]2の振動分光による成果に続き、近赤外分光を使った評価法を論文発表した。金属-絶縁体転移において、軌道準位の入れ替わりに伴う不均化反応が起こる。金属相ではHOMO-HOMO間で斥力の影響がみられるが、半導体相では-1価のLUMO同士に引力が働くことで-2価の二量体が生成することを見出した。 以前に測定したEtMe3As[Pd(dmit)2]2(Dに属する)の分子内振動スペクトルを数値解析した。斥力により反強磁性秩序を形成する分子集団に混ざって、引力により-2価の四量体も形成されることが判明した。 Eに属するPd(dddt)2 は、Dirac電子系として期待されているものの、本研究に適した試料合成が難しかった。そこで、2022年度は合成が比較的容易な類縁体Ni(dddt)2に着目し、基準振動解析を行い、ラマンスペクトルと圧力中の赤外スペクトルを測定した。C=C伸縮振動の周波数が圧力に依存した。二種類の軌道準位が近接する様相を追跡できることが期待できる。 2021年度に、液体媒体とダイヤモンドアンビルセルを利用して、圧力中の赤外反射スペクトルを無偏光で測定できるようにした。2022年度では、偏光スペクトルを測定できるのか検討した。Cに属するκ-型(BEDT-TTF)2Cu(SCN)2を用いて実験したところ、斥力と引力に関する議論が可能であることを見出したので、学会発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までの出張制限による影響と、2022年度に起こったヘリウム供給装置の故障と修理、および、本申請者の療養のため、一部の計画で進行が遅れた。2022年度の途中から研究期間の延長を決定し、2023年度には以下の研究を行う予定である。 Cに属するκ-型BEDT-TTF塩でも、EtMe3As[Pd(dmit)2]2で行ったように分子内振動のスペクトルを数値解析できるのか検討する。κ-型(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Iおよび、反強磁性体や超伝導体に適用する。解析結果から、斥力が働く分子からなる(磁気秩序を形成する)集団と、引力が働く分子からなる(スピンギャップを形成する)集団が、共存できるのか検討する。 Eに属するPd(dddt)2 に関して、本研究に適した試料合成法を検討する。合成できた場合は、圧力中の赤外スペクトル、および、ラマンスペクトルを測定する。周波数が圧力に依存するC=C伸縮振動を見出し、Dirac電子系の検証が可能なのか検討する。 2022年度は、AとBに属する物質のうち、金属的伝導を示す試料を対象に一軸圧縮を行う予定であったが、ヘリウム供給装置の修理のためできなかった。一軸圧縮の研究を発展的内容になるように組み直して、独立した新規課題として別途行うことにした。本課題においては、一軸圧縮が未適用であるAとBに属する物質における分子内振動を観測し、斥力と引力に相当するC=C伸縮振動の周波数を求める。得られた周波数から、既に一軸圧縮により超伝導が促進された物質と共通性があるのか探る。 以上の実験から、電子-電子間に働く引力と斥力にまつわる観測量を、AからEに至る物質で得ることができるので、超伝導など伝導性が発現する条件を俯瞰的にまとめる予定である。
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Report
(4 results)
Research Products
(15 results)