社会的不平等についてのメディア情報が多元的正当化に及ぼす影響
Project/Area Number |
19K14374
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 10010:Social psychology-related
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
川嶋 伸佳 神奈川大学, 人間科学部, 准教授 (10637250)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2020)
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Budget Amount *help |
¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2021: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2020: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2019: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 所得格差 / 社会的不平等 / 多元的正当化 / システム正当化 / 公正感 / メディア情報 / 格差 / 不平等 / メディア / 社会心理学 / 正当化 / 公正 |
Outline of Research at the Start |
現代日本社会において、社会的不平等(格差)の解消は重要な課題の1つである。多くの人が格差の拡大を望んでいないにもかかわらず、それが一向に解消されないのはなぜであろうか。その原因について、心理学的観点からは人々の正当化過程を挙げることができる。つまり、格差の存在自体が人々にとって脅威であることは間違いないのであるが、それをすぐには解消できない以上、心の中でその脅威を低減し短期的な安寧を得ようとしている可能性がある。本研究では、社会が不公正であっても自分だけは公正に扱われているとみなす「多元的正当化」プロセスを仮定し、格差を報じるメディア情報の内容がそれとどのように関連するのかを検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、社会の不条理に触れた人々が社会を不公正な場所とみなす(システム非難をする)一方で、自分自身は公正に扱われていると考える(自己処遇正当化をする)ことで一時的な安寧を得るとする多元的正当化仮説を検証することである。 本年度は、所得格差に関するメディア情報の質が多元的正当化に及ぼす影響を検討するために、格差を社会的状況として描写した社会焦点条件と、それを個人的状況として描写した個人焦点条件を設け、それらを格差情報を示さない統制群と比較することで、それぞれの格差情報がマクロ不公正感およびミクロ不公正感に及ぼす影響を検証した。なお、昨年度用いた刺激に比べて社会焦点と個人焦点の両条件で格差の大きさを強調し、かつ個人焦点条件で描写する人物の属性を明確化することで、より詳細な心理メカニズムの解明を目指した。 2021年2月にWEB調査を実施し、3242名を分析対象とした。個人焦点条件にて男性のアルバイトの状況を描写したこと、さら社会焦点と個人焦点の両条件で相対的貧困基準として所得を提示したことを踏まえて、性別、従業上の地位、および世帯所得に特に注目して分析を行った。 その結果、システム非難は非正規雇用者、無職者、および正規雇用女性において社会焦点と個人焦点の両条件で、また主婦・主夫においては個人焦点条件で認められた。一方で、自己処遇正当化は、社会焦点条件の自営業高所得男性、および個人焦点条件の自営業女性と主婦・主夫の間で見られた。さらに、自営業者は社会焦点条件で社会を公正とみなす傾向(システム正当化)を示した。これに加えて、無職者は社会焦点と個人焦点の両条件で自分が不公正に扱われていると感覚を強めた(自己処遇非難)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験操作として提示した所得格差に関するメディア情報について、今年度は①社会焦点と個人焦点の両条件にて格差の程度の明確化、および②個人焦点条件にて困窮する人物の属性の明確化という2点の改良を行ったことで、より多様な属性の参加者の間でシステム非難および自己処遇正当化が観察可能となり、多元的正当化メカニズムを説明するための重要な知見が得られたと言える。 システム非難は相対的に恵まれない立場にある人々の間に見られたことから、社会生活の中で格差と否定的評価の結びつきが強い人々の間でシステム非難が生じやすいと考えられる。ただし、無職者においてはシステム非難と自己処遇非難が同時に見られた一方で、非正規雇用者や正規雇用女性のシステム非難には自己処遇非難は伴わなかった。このことから、不公正な社会と自分自身を切り離す反応、いうなれば消極的な自己処遇正当化が、個人の社会経済的な状況に依拠して生起する可能性が示唆された。 積極的な自己処遇正当化は個人焦点条件の主婦・主夫の間で見られた。主婦・主夫の多くは比較的所得の高い女性であり、断定はできないものの、困窮する人物と自己との対比において自己処遇正当化が生じやすい可能性が示唆される。 自営業者の間では、システム正当化と自己処遇正当化の両方が認められた。システム正当化の背後には不安や脅威があるとされるが、コロナ禍において自営業者が置かれた先行き不透明な状況が、彼/彼女らに社会の公正さ知覚を強める反応を促したと考えられる。さらに、そのような不安を解消するためには自分自身の現状も肯定的にとらえることが有効であり、自己処遇正当化メカニズムも働いたと解釈できる。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2回の研究では、所得格差に関するメディア情報の具体性および比較対象との類似性がマクロとミクロの両公正感に及ぼす効果を検討することで、多元的正当化のメカニズムの一部を解明することができた。最終年度では、本研究課題のもう1つの焦点であった脅威の程度について検討を行う。多元的正当化の背後には、社会的不条理から喚起される脅威や不安が想定される。このような否定的感情は脅威が大きいと認知されるときほど高まるため、格差がもたらす不利益の程度を操作し、それが大きい時ほどより強い正当化が生じると予測する。 最終年度もこれまでと同様にWEB調査を実施する予定である。その際、過去よりも予算が少ないことを念頭に、条件数、参加者の属性、調査のボリューム等を再検討することで、十分な調査対象者数の確保を目指す。
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Report
(2 results)
Research Products
(1 results)