Project/Area Number |
19K21639
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 2:Literature, linguistics, and related fields
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Research Institution | Keisen University |
Principal Investigator |
有馬 弥子 恵泉女学園大学, 人文学部, 教授 (70212652)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
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Keywords | パレスチナ / パレスチナ系アメリカ文学 / アラブ系アメリカ文学 / イスラーム / ムスリム系アメリカ文学 / モナ・マンスール / ヌーア・シアター / アヤド・アクタール / ベティー・シャミー / シャミー作Roar / ハラ・アリヤーン / アラブ / ムスリム / アラブ系英語文学 / パレスチナ系英語文学 / ムスリム系英語文学 / ディアスポラ / アメリカ文学 |
Outline of Research at the Start |
前課題「合衆国東海岸都市部におけるイスラム系移民の文学・文化活動」は、パキスタン系且つムスリム系アメリカン劇作家Akhtar作品研究を出発点とし論文発表はこれを中心に行ったが、そもそも本研究者がAkhtar劇作を知ったのはパレスチナ系ムスリムで英語および英語に翻訳されたアラビア語による現代アラブ文学関連文芸誌Banipal編集関係者らを通じてであった。 このように、アラブ、ムスリム、パレスチナの間には確執がありつつも、ことに文芸・文化活動においては支援関係も多く見られるため、本課題では三者の複雑に交錯する関係性および各々のディアスポラ性を作品研究と上記文芸関係者へのインタビューにより検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年12月に多民族研究学会、学会発足20周年記念シンポジウム、クロスエスニシティセッションで、アラブ系、ムスリム系からの視点を提供。2023年10月に勃発したイスラエル/ハマス間の戦闘の経緯を鑑みつつ、パレスチナ問題の歴史を踏まえたマンスール劇作The Vagrant Trilogyを論じた。本作中、イギリスの大学で研究者としてのキャリアを目指すパレスチナ人主人公は、第一部終盤1967年ナクサ勃発時に故郷パレスチナに戻るか戻らないかの選択を迫られる。第二部はイギリスに留まった場合の展開、第三部はパレスチナに戻った場合のそれを提示するこの三部作は、どちらの選択もパレスチナ人にとって悲惨であることを表現しており、発表では本作が現在に至るまで激化し続けているこのイシューを劇作としてのこのような構図により効果的に描出していることを強調。また、第二部終盤では1982年サブラー・シャティーラ事件が勃発し、主人公の兄がこの事件で死亡するのに対し、第三部では兄は生きているという対照的な設定も、ベイルート市内の両パレスチナ難民キャンプが襲撃されたこの事件がいかにパレスチナ人にとって重大な歴史であり続けているか演劇表現を通じて効果的に訴えていることを論証した。 紀要論文として発表したシャミー作Roarの分析は、マンスール劇作と共通するテーマである中東内外のパレスチナ人のジレンマについての論考である。難民キャンプを脱した外地パレスチナ人もまた葛藤を抱える。中東に戻るか戻らないかという揺れに加え、例えばアメリカ生活においてパレスチナの出自を詐称するか、しないかをめぐり家庭内でも見解が異なり親族間の軋轢となる。セリム論文は本作がパレスチナのアイデンティティや苦悩と対峙し得ていないとしているが、本論は葛藤や揺れ幅こそがパレスチナ系ディアスポラの本質であるとして本作を高く評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要で挙げた成果二点は共にアメリカ現代演劇作品である。近刊予定『現代演劇』23号に収録される二論文では、「金融経済に侵食されるイスラム急進派の理想――もう一つの『見えざる手』」と題して、かねてから取り組んできた劇作家アクタールによる『見えざる手』を、「政治的蜃気楼としてのアラブとイスラエルの交差」と題して脚本モーゼス、作詞作曲ヤズベック『バンズ・ヴィジット』を論じた。 『見えざる手』はアクタールのルーツであるパキスタンを舞台にし、イスラムをテーマにしたアクタール劇作の中でも遠大なテーマ、世界経済とイスラムの交差を扱い結末は最も深刻である。本作中、世界経済、アメリカ経済、第三世界パキスタンの経済、そしてイスラム原理主義がどのような関係性を織り成し破滅に至るのか、劇作としてのその提示方法とその意味を論じた。 誤ってイスラエルの辺境の町に迷い込むエジプトの楽団員と町のイスラエル住人の束の間の交流を描く『バンズ・ヴィジット』論考では、明らかに政治的対立が現存するにもかかわらず作中何故それらへの言及が最小限に止められているのか、あたかもそのイシューを回避するかのような提示方法にどのような意味があるのかを論じた。 記事「アメリカ演劇事情」では「同時多発テロ後のアメリカ演劇――アメリカ的モザイクの一片としてのイスラム、アラブのテーマ」、「『ディスグレイスド』後のアクタール演劇上演」、「ヴィレッジに点滅するムスリム、アラブ、パレスチナの語り」、「『カム・フロム・アウェイ』――ブロードウェイにみるもう一つの同時多発テロ後」、「同時多発テロ後の実相と演劇界におけるアメリカ的モザイク」の五節を設け、ニューヨーク、イーストヴィレッジのオフ・ブロードウェイ公演の変遷に言及しつつ、現代アメリカ演劇界が激化するイスラエルとアラブの対立を背景にアラブやイスラムといかに対峙してきたかを総括した。
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Strategy for Future Research Activity |
『多民族研究』第18号に向けて論文を投稿予定。2023年10月に勃発したイスラエル/ハマス間の戦闘状況は2024年以降現在までの間にも全く終息せず、2024年4月にはイランなど周辺諸国にも更に波及し悪化し続けている状況であり、予断を許さない状況が続くことが予想される。投稿予定原稿ではそれらの最新動向についての日本国内外の論評を踏まえた考察を加筆する。2023年12月シンポジウム発表で述べたように、今回の事態はガザについての意見表明をめぐってアメリカ文化面、教育面でも未曾有の混乱を招いている。特に各大学での停戦を求める学生によるデモの激化と各大学当局の対応をめぐる混乱はガザ地区での戦闘の激化に比例するかのように激化していることに併せて触れていく。 これまでの研究過程で着目してきたニューヨーク・シアター・ワークショップのCompany in Residenceとして同シアターにより支援されてきたアラブ系一座ヌーア・シアターによる二公演、Dead Are My People、Food and Fadwaは本課題にとっては要となる作品であるため、今年度中に直接ニューヨーク・シアター・ワークショップを通じてヌーア・シアターに接触をはかり入手を試みる。 2022年2月5日から3月20日までリンダ・グロス・シアターで上演されたイラン系アメリカ人劇作家サナズ・トゥーシによるEnglishは2023年ピューリツァー賞を受賞。脚本を入手したので作品研究に着手する。 今年9月下旬にはアクタールの最新劇作McNealがリンカーンセンターで上演されるため脚本が出版され次第入手し研究に着手する。
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