農業地域における技術進化の過程とメカニズム―日本の米品種の変遷を事例として―
Project/Area Number |
19K23130
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0104:Geography, cultural anthropology, folklore, and related fields
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Research Institution | Setsunan University (2020-2021) Osaka University (2019) |
Principal Investigator |
小林 基 摂南大学, 外国語学部, 講師 (10845241)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2021)
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Budget Amount *help |
¥1,820,000 (Direct Cost: ¥1,400,000、Indirect Cost: ¥420,000)
Fiscal Year 2020: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2019: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 水田稲作 / 非コシヒカリ系品種 / アケボノ / 干拓地農業 / 岡山県 / ローテク・スマートネス / 農業 / イノベーション / 稲作 / 機械化 / 品種 / 岡山市 / 普及 / 進化的アプローチ / ユーザー / 市場創造 / 技術の普及 / 進化経済地理学 |
Outline of Research at the Start |
農産物の品種の多様性は、農業の振興と持続性の確保に欠かせないといわれる。それでは、地域によって品種が多様化したり、画一化するメカニズムとは、どのようなものか。本研究は、日本の様々な産地における米の品種構成の変化を対象に、国策の変化、都道府県内の研究機関・農協・農家などの交流、農家の品種選択の意思決定という、複数のレベルにまたがるプロセスを関連づけ、その複雑なメカニズムを解明することを目的とする。米の品種がなぜ多様化/画一化するのかという一見シンプルな問題は、グローバルな農業存続の問題に通じ、その解明はイノベーションとそのインパクトをマルチレベルで捉えるための方法論を切り拓く一歩となる。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、岡山県岡山市を中心に生産される非コシヒカリ系統の主食用米品種「アケボノ」「朝日」を中心に、その生産存続要因を行政資料、統計データ、聞き取りによって明らかにした。 特に兵庫県農業試験場で作出されたアケボノは、児島湾干拓地を中心に岡山県内に広く普及し、その後作付面積を増減させつつも今日まで生産が維持されてきた。県の農業試験場(岡山県農林水産総合センター)および岡山市農業協同組合への聞き取りなどの情報を総合すると、その条件として、干拓地の水利条件から晩稲でなければならないこと、施肥量がわずかで済み、低コスト化につながること、省力的な乾田直播栽培に適していたことなどが挙げられる。晩生品種は現代における主食用米育種では主流から外れており、貴重である。ただし、干拓地における水利には地域差が想定されるほか、除草作業の労力がかかることから乾田直播栽培は主流ではなくなっているとも聞かれたため、再度現地での聞き取りで確認する必要がある。 当該地域の農家は農地を維持するために農業を続けており、投資が少なく栽培しやすいことが重視されている。本品種は、こうした「ローテクなスマート性」が有利となる環境の中で存続したものであり、その生産体系はオルタナティブな農業成長の方向性を示唆するものとしても評価しうるものであると考えられる。年度末よりアケボノの生産体制についての報告論文を執筆しており、次年度に学会誌への投稿・受理を目指したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岡山県においてなぜ多様なイネ品種が存続しているのか、その理由が解明されつつあり、研究目的の達成に順調に近づいていると評価できる。 とくに、当該地域において非コシ系の古い品種が産地化されて大規模に栽培されている状況は、農業水利と低コスト性という二つの条件から生じていることが解明された。これは他の地域にも一般化できる可能性もあり、たとえば田植えのシーズンを前倒しできない地域であれば、非コシ系品種の存続・振興できる可能性がある。ただし、当該地域の内部においても生産体系には複数の類型がみられ、栽培方法にバリエーションが存在しているため、単純なモデル化を行うことには慎重になる必要がある。これについて詳細を詰めて行くことが今年度中の課題となるだろう。 このような研究成果は、栽培されているイネの品種の多様性のメカニズムを解明するという本課題の当初の目的を達成するうえで重要なものである。これは、世界的に問題になっている作物の遺伝的多様性保全の観点からも重要な知見となりうるほか、この地域における低投資の稲作の生産体系が、高投資型のイノベーションを推進するコンベンショナルな政策方針に対してオルタナティブを提示しうる可能性も見えてきた。 一方で、まとまった成果の公表については十分に行えているとは言えない状況であり、その点で課題が残っている。今年度中の成果公表を急ぐ必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、アケボノの存続条件について複数の不確かな点が残されており、これについて関係者への聞き取りと資料調査を行うことで明らかにする。今年度の前半までに成果をまとめて査読誌に投稿し、また、学会での報告を行うことを予定している。その際に並行して、アケボノの比較対象となる事例を探索することで、生産存続条件と生産体系についての知見の一般性を高めることを試みている。これについては、同じく非コシ系品種が産地化されているハツシモ(尾張平野)や、他の地域の干拓地農業についての資料収集を行うことによって達成できると考えている。 年度後半にはこれまでの研究成果を総合する論文を執筆し、英文で投稿することを検討しているほか、農業経済学など地理学以外の分野での学会報告を行うことを予定している。これにより、児島湾干拓地を中心とする岡山県の稲作の現代的・一般的な意義について分野を超えて発信することを試みたい。
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Report
(3 results)
Research Products
(4 results)