大気・海洋の微粒子観測への実用化と国際共同広域観測のための基盤形成
Project/Area Number |
19KK0289
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Research Category |
Fund for the Promotion of Joint International Research (Fostering Joint International Research (A))
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 63010:Environmental dynamic analysis-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
茂木 信宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20507818)
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Project Period (FY) |
2019 – 2023
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥15,210,000 (Direct Cost: ¥11,700,000、Indirect Cost: ¥3,510,000)
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Keywords | エアロゾル / 海洋微粒子 / 装置開発 / 黒色炭素 / 微粒子測定 / 鉱物ダスト / 光散乱 / 大気微粒子 / 海洋懸濁粒子 / 観測装置 |
Outline of Research at the Start |
本国際共同研究では、基課題研究にて発明した新たな微粒子測定法を、実際の大気微粒子や海洋微粒子の観測に実用化するための基礎固めをする。そのために、大気・海洋の観測研究で世界をリードしている米国海洋大気庁NOAAの地球システム研究所ESRLに1年間滞在し、地上や航空機において安定して連続観測できる装置の共同開発を行う。またNOAAなどが所有・開発してきている他の最先端の測定手法と組み合わせることにより、微粒子を多角的に測定する複合測定・データ解析手法の開発も行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
1つ目の成果は、渡航先研究機関の研究者と議論しつつ、複素散乱振幅データから黒色炭素粒子の可視波長における複素屈折率を推定する理論的手法を開発し、結果を論文化したことである。複素屈折率は、エアロゾルによる太陽放射の吸収および散乱の主な決定要因であるものの、大気中の黒色炭素についての正確な値は、波長スケールの形状の不規則性、粒子のサイズ分布、および他のエアロゾル化合物との混合状態の変動のために、定量的に測定することが困難であった。本研究では、水中に分散させた大気エアロゾルに複素散乱振幅センシングを適用することで、他の共存物質の影響を受けずに黒色炭素粒子の複素散乱振幅を観測する方法を開発した。取得された複素散乱振幅データに、粒子形状・粒径分布をパラメトリックに考慮した凝集体形状モデルを用いたベイズ解析を適用することで、複素屈折率の実部と虚部の同時確率分布を推定する方法を開発した。この手法を、北西太平洋境界層のエアロゾルに適用し、初めて実大気中の黒色炭素の複素屈折率の実部・虚部の定量的な制約に成功した。結果はAerosol Science and Technology誌に出版された(2023年4月18日公開)。2つ目の成果は、渡航先研究機関の研究者・技術者と議論しつつ、従来の複素散乱振幅センシング法の性能を拡張したことである。入射ビームにHeNeレーザーの代わりに半導体レーザーを用い、その際のノイズを低減する方法を開発した。また、入射場の偏光状態と検出の偏光成分を適切に制御することで、粒子の非球形度を高感度で検知できることを明らかにした。この成果により、複素散乱振幅センシング法により大気中の鉱物ダスト粒子の判別・検出が実現できる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
渡航直後から4カ月間で、1つ目の目標であった黒色炭素の複素屈折率の制約のデータ解析手法開発と論文執筆まで終えることができた。エアロゾル研究では最も権威ある雑誌の一つである米国エアロゾル学会のAerosol Science and Technology誌に受理され、特に影響力の大きな論文として、編集部からHeadline Infographicに選定された。これは計画時に期待していたよりも大きな成果である。本研究成果を得る上で、特に、複素散乱振幅データから複素屈折率を推定する逆問題の解法において、最先端のベイズ統計解析の方法(Hamiltonian-MC)を導入することで収束性と速度を各段に向上させたこと、それを可能にするために非球形粒子の複素散乱振幅の数値計算テーブルに自動微分可能なスプライン補完法を適用できるようにしたことが、アイデアと技術における大きな躍進であった。また、鉱物ダスト粒子は形状が不規則であることから、従来の複素散乱振幅センシング法では他の未知微粒子と正確に区別して検出することが困難であった。渡航先研究機関の研究者と議論する過程で、偏光成分ごとの複素散乱振幅を測ることで非球形性を光学的に検出するためのアイデアを得た。2023年3月中にそのアイデアを実証するための光学系を試作し、幾つか種類の鉱物ダスト粒子(石英、雲母、カオリナイトなど)について、非球形性の判定性能を実証することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
非球形度を検出できる複素散乱振幅センシング装置の測定性能を向上のための基礎研究を実施する。鉱物ダスト粒子の判別能を向上させるため、円偏光ビームの入射場と直交する2つの偏光成分の複素散乱振幅の測定を、高精度に実施できる光学系を設計・製作する。具体的には、フローセルを透過した光波を偏光ビームスプリッタで各偏光成分に分離してから散乱波と入射波の干渉を検出できるようにする。電子顕微鏡で粒子形状の特徴(アスペクト比など)を分析した鉱物ダスト粒子について、複素散乱振幅の偏光解消度の測定値を、任意形状粒子の光散乱ソルバーである離散双極子(DDA)法による理論計算値と比較して検証する。さらに、波長選択の自由度を広げかつ装置のサイズを抑えるため、従来のHe-Neレーザー光源の代わりに半導体レーザー光源を用いた際のレーザーノイズの低減技術を引き続き改良する。半導体レーザーの場合においてもHe-Neレーザーと同程度のビーム波面精度を保つため、シングルモードファイバー出力の半導体レーザー光源を用いるがその際のビームの偏光状態を正確に制御する技術を開発する。さらに、ビーム中心でのフローセル流路幅を圧損の許容範囲において最小化することで粒子のビーム横断速度を高め、粒子検出頻度を最大化する。また、液中だけでなく気中で直接粒子の複素散乱振幅を計測できる技術を開発する。これらの開発は渡航先研究機関の研究者・技術者と議論しながら進める。
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Report
(4 results)
Research Products
(6 results)