Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (Start-up)
本年度に調査を行ったサンタンジェロ聖堂(ペルージャ、5世紀末)とサンタ・マリア・マッジョーレ洗礼堂(ノチェーラ、6世紀中頃)、およびサント・ステファノ・ロトンド聖堂(ローマ、5世紀末)は、周歩廊を備えた円形平面の集中式建築である。サント・ステファノ・ロトンド聖堂ではイオニア式とコリント式の柱頭が使用されているが、外壁の開口部と対応する場所にはコリント式を使用している。また外壁にはアーチが、一方で中央空間にはアーキトレーヴが使用されるなど、様式と部材の配置には明確な計画が見られる。他の2例では、多色大理石と数種類の柱頭を再利用して色と様式を規則的に組み合わせ、色彩感と躍動感のある内部空間となっている。これらの事例では、再利用材の組み合わせによってアプシスと入口を結ぶ軸線及び直交する軸線の視覚的な強調が確認された。また、再利用材の組み合わせと配置の法則は、色彩と材料の価値、様式といった複数の要素で構成されており、本来均質である円形の堂内に空間の階層性を導入する手法として利用されていると思われる。同様の円形平面をもつサンタ・コスタンツァ霊廟(ローマ、4世紀前半)では、周歩廊ヴォールトのモザイク装飾においてブロックごとに異なる図像が描かれており、前述の3事例と同様に空間の機能または階層性との関連が考えられる。集中形式の教会堂における軸性の強調と空間の階層性は、古代建築の円形平面をキリスト教建築に導入する際に必要とされた要素であり、キリスト教建築の形成の重要な側面と考えられる。中央空間を外壁に開かれたアプシスや入口とつなぐ空間である周歩廊の機能を検討するにあたって、これらの要素との関係性を手がかりに検討を進める予定である。