Research Abstract |
2003年の地教行法第50条の削除以降,2008年度までに20都県で全日制普通科高校の通学区域が廃止された。廃止の趣旨は,私立高校への流出に対する対抗策や,市町村合併による行政区と学区の線引きの不整合の是正であったりするのだが,表向きは一様に学校の特色化や生徒の主体的な学校選択の実現を謳っている。 さて,新潟県では2008年度入試から通学区域が廃止された。それまでは全県を8学区に分割し,学区毎に15~25%の割合で指定された隣接学区からの生徒を受け入れる制度であった。全県一区型公立高校入試の現状と課題を明確にするため,全県一区型初年度である2008年度入試と旧ルールによる2003年度のそれとを比較検討した結果,得られた知見は以下の通りである。 全県の動向をみると,他学区への流入・他学区からの流出を総計した流動率(全志願者数における割合)は,2003年度の8.5%(1487人)から2008年度は11.8%(1628人)へと3.3pt上昇した。この数値だけをみると,全県一区化が流動を促進したようにも捉えられるが,2008年度の流動のうち,11.6%(1600人)までが旧隣接学区内での志願であり,旧非隣接学区への志願は0.2%(28人)でしかない。つまり,全県一区化が,必ずしも旧学区にとらわれない全県的流動を必ずしも促進したわけではなかったことが確認された。 上記事実から,以下のことが仮説的にいえる。学区撤廃によって非隣接学区への志願が制度的に可能となったことから,改めて旧ルールが再評価され,隣接学区へ志願する行為を相対的に低いハードルであると志願者に感じさせた。そのことが,結果的に隣接学区への志願者の流動を促進する触媒となった。このことは,全県一区化には人的流動を促す一定程度の効果があったと評価することも可能ではあるが,隣接学区さえも越えて志願する動きがほとんど見られなかったのは,そうしたいと思わせるための,県が推進している「学校の特色化」の進捗が遅々たることと,面積が広く公共の交通網がそれほど発達しているとは言い難い新潟県の地域的条件に起因している。ここに流動の詳細を記す余裕はないが,報告者は,全県一区化によって「行きたい学校」へというよりは,むしろ逆に「行ける学校」を選ぶ傾向を強化する結果となってしまったと分析する。 新潟県が全県一区化導入のスローガンとして掲げた「行ける学校から行きたい学校へ」というパラダイムシフトを実効化するには,流動を促進するための更なる工夫と仕掛けが必要であるといえよう。
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