【目的】河川上流部に位置する渓流域では、遊漁(釣り)による魚類への漁獲圧は大きく、1人の遊漁者の1回の釣獲により、イワナで個体数の18%、アマゴ(ヤマメの亜種)で11%が漁獲される(Tsuboi and Endou2008)。遊漁資源を保全し、かつ持続的に利用するためには、釣獲率だけではなく、釣られやすい体サイズを調べることは重要である。釣られやすい個体の特徴に関する知見は、実際の遊漁管理方策(遊漁ルール)設定の際の基礎資料となることが期待される。本研究では、遊漁による釣獲圧が高い河川、低い河川とで、釣られた尾叉長(体長の指標)を比較した。 【方法】平成20年8月7日から10日にかけて、富士川水系の支流2河川において、アマゴを対象とした釣獲実験をおこなった。1河川は徒歩1時間以上かかるため遊漁者がほとんどみられない河川で(低釣獲圧河川)、もう1河川は自動車で川岸まで行くことができる遊漁者の多い河川である(高釣獲圧河川)。実際に、遊漁者の捨てたゴミ(釣り糸など)の数を比較したところ、高釣獲圧河川のほうがゴミの数が有意に多かった(p=0.016)。餌釣りを行った後、電気ショッカーを用いて、釣られなかった個体を捕獲した。 【結果】低釣獲圧河川に生息するアマゴは高釣獲圧河川よりも尾叉長が大きかった(p<0.0001)。また、低釣獲圧河川では、釣られた個体のほうが、釣られなかった個体よりも大型であった(p<0.000)。一方、高釣獲圧河川では、釣られた個体、釣られなかった個体で尾叉長に有意差は認められなかった。そのため、高釣獲圧河川では、遊漁により大型個体が減少していることが示唆された。大型個体ほど再生産に重要であるため、これまでの遊漁ルールであった最小体長制限(全長15cm以下は再放流)ではなく、最大体長制限(例えば全長22cm以上は再放流)を設けるべきである
|