1820年代以降のウィーン体制における勢力均衡の機能
Project/Area Number |
20J00109
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 06020:International relations-related
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
矢口 啓朗 関東学院大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2021)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | ウンキャル・スケレッシ条約 / 東方問題 / コミットメント問題 / ロシア外交史 / ニコライ一世 / 露英関係 / 海峡協定 / 四国同盟 / ウィーン体制 / ベルギー独立問題 / 会議外交 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、ヨーロッパ諸国の公文書館に所蔵された未刊行史料の収集・分析を通じた、19世紀前半のイギリスやロシアの外交政策に関する歴史的新事実の発見と、その新発見に基づいて、ウィーン体制期の勢力均衡に関する理論構築を同時に行う。これにより、歴史学の一分野である外交史と国際政治学の一分野である理論構築を架橋することを目指す。 19世紀のヨーロッパ国際政治、特にウィーン体制は、基本的には5つの大国が存在する多極構造であり、現代国際政治にも通じるところがある。ウィーン体制の研究を通じて、どのような場合に勢力均衡が戦争を抑止するのか、理論的に精緻化できれば、現代を対象とする研究にも示唆を与えることができる。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度(2021年度)においては、前年度に引き続き、世界的な新型コロナウィルス蔓延のため、予定していたロシア連邦やイギリスなどにおける史料調査が不可能となったことから、日本国内にとどまって、学振採用前に入手したロシアの公文書館所蔵の未刊行史料や刊行史料を活用した論文の執筆と『ロシア・東欧研究』への投稿作業を中心に研究活動を行った。これに加えて、前年度に読んだ2冊の書籍に関する書評も執筆し、それぞれ『西洋史研究』と『東北アジア研究』に投稿した。 まず論文に関しては、1833年にロシアとオスマン帝国の間で締結されたウンキャル・スケレッシ条約を巡るヨーロッパ国際関係について、国際関係論におけるコミットメント問題を分析枠組みに使用した上で、ロシア側の未刊行史料・刊行史料に加えて、英仏の刊行史料を用いて論じた。とりわけ従来のロシア外交史研究においては、ウンキャル・スケレッシ条約と1841年に締結された海峡協定を比較して、前者が露土二国間同盟を通じてボスポラス・ダーダネルス両海峡の外国軍艦の戦時における通航禁止を成し遂げたのに対して、後者が平時のみの軍艦通航禁止であった点を問題視し、ロシアの国益が損なわれたと論じられてきた。これに対して本研究は、ロシアがウンキャル・スケレッシ条約のパートナーであるオスマン帝国をどの程度信用していたのか、そしてウンキャル・スケレッシ条約の実効性についてどの程度確信していたのかに注目した。外務省が残した未刊行史料に加えて、ロシア陸軍の軍人の日記などを分析した結果、ロシアはパートナーであるオスマン帝国の実力をほとんど評価しておらず、むしろ想定外であったイギリスの条約に対する猛反発の結果として、ロシアの安全が脅かされていると認識していたことを発見した。その上でロシアは、より実効性の高い両海峡軍艦通航禁止規則を求めて、5大国の同意による海峡協定を選択したと論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においても、予定していたロシアやイギリスなどの国外における公文書館史料調査は、新型コロナウィルスの世界的蔓延のために、事実上不可能となった。そのため当初の予定とは異なるが、これまでに収集した未刊行史料と刊行史料を中心にウンキャル・スケレッシ条約について考察することとなった。 とりわけ『ロシア・東欧研究』第50号への論文投稿は、2021年11月に最初の投稿を行い、査読コメントと修正を経て、2022年3月に掲載が決定した。雑誌の公刊は、次年度(2022年度)にずれ込むと予想されているが、手持ちの国内にある史料に加えて、国際関係論の理論的分析枠組みを活用することにより、1830年代のロシアがウンキャル・スケレッシ条約に不十分さを感じていたという知見を得ることができた。また、前年度(2020年)に『国際政治』第206号に投稿した論文「一八三〇年代の四国同盟―ロシアの対イギリス政策の視点から―」が2022年3月に刊行されたことも併せて、ロシア外交における会議外交と東方問題の関係性に関する研究が進展することとなった。 加えて今年度においては、前年度に読了した(1)Miroslav Sedivy (2018), The decline of the congress system: Metternich, Italy and European diplomacy, London & NY: Bloomsburyと(2)Елена Кудрявцева(2019), Министерство Иностранных Дел России во Второй Четверти XIX века, Москва: Издательство МГИМО-Университет. の書評をそれぞれ『西洋史研究』と『東北アジア研究』に投稿し、今後の自分の研究の方向性について考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2022年度)に関しては、就職が決まったことにより、学振特別研究員の職を離れなければならなくなった。また、2022年2月に始まったロシア―ウクライナ戦争の勃発により、新型コロナウィルスの蔓延が一段落した後も、特にロシアの公文書館における未刊行史料の調査が大変難しくなった。そのため、ロシア以外のイギリスやフランスなどの公文書館において、本国外務省と駐露大使館の書簡を中心に未刊行史料の調査を行うことを予定している。また、すでに刊行されているロシア人外交官や政策決定者たちの史料を積極的に活用することによって、ウィーン体制におけるロシア外交の研究を続けたい。読解・分析する主な史料は、戦前のロシア語雑誌Красный Архивに掲載された1848年2月革命におけるロシア人外交官の書簡や、1839-1850年に駐プロイセン公使と1851-1854年に駐オーストリア大使を務めたピョートル・マイエンドルフの手紙でなどの予定である。これらの未刊行・刊行史料の分析を通じて、1848年革命やクリミア戦争といったヨーロッパ国際秩序の再編期におけるロシア外交の在り方を考察していく。 加えて、本年度においては、ロシア―ウクライナ戦争の勃発と併せて、ウィーン体制期においてロシアが実施した軍事介入について考察していきたい。ヨーロッパ5大国の中でロシアは、イギリスやオーストリアと比較しても、国際秩序を維持するための関与において、国際会議を主導するよりも、直接的に軍事行動を行おうとした傾向があったように思われる。従って、ウィーン体制における国際秩序との関わり方が、その後の約170年間のロシア外交にどのような教訓を与えることになったのかについて考察していくことが、学振特別研究員を辞退した後の研究テーマとなると思われる。
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Report
(2 results)
Research Products
(2 results)