Project/Area Number |
20K00191
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Kanazawa College of Art |
Principal Investigator |
荒木 恵信 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 教授 (00381690)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,290,000 (Direct Cost: ¥3,300,000、Indirect Cost: ¥990,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
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Keywords | 江戸時代 / 仏画 / 文化財 / 日本絵画 / 絵画技法 / 木村徳応 / 平等院 / 来迎図 / 近世仏画 / 木村貞綱 / 文化財修理 / 日本美術史 / 文化財保存 / 美術史 / 製作技法 / 保存科学 |
Outline of Research at the Start |
江戸時代初期の絵仏師 木村貞綱の描いた仏画の制作技法を解明し、そこから絵画理念を追求する。 貞綱の仏画には高度な制作技法に基づく高い品格が認められ、それは絵画理念によって創造されたものである。絵画理念は画家の核であり、人脈や風土なども反映して形成され、時代の文化を読み解く鍵でもある。 貞綱の言動を示す記録がない中、制作技法を作品調査と再現図制作を通して具体的に解明することで、その独自性・類似性の検証が可能となり、ここから絵画理念を導く。 江戸時代の仏画は図様の様式化などを理由に敬遠され、これは文化を理解する弊害となっていた。江戸時代の仏画制作における歴史的文脈に関する問いへと課題を発展させたい。
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Outline of Annual Research Achievements |
木村貞綱の制作と考えられる国内所蔵の仏画の悉皆調査を実施している。当年度は、兵庫県宝塚市中山寺所蔵「釈尊降誕図」の現地調査を実施した。調査内容は、目視調査と簡易的なデジタル画像撮影である。本図は、以前調査した梵釈寺所蔵「誕生釈迦瑞相図」と同様の紙本墨刷の下地に彩色を施したものと考えられ、これと同じ技法で描かれた作品に、調査を終えている小松寺所蔵「釈迦如来誕生図」がある。彩色されたこの2作品を比較すると、配色や模様などに相違点が確認できる。また、「釈迦如来誕生図」には絵具層の剥落や色調の変化など経年による影響があるが、「釈尊降誕図」は剥落なども少なく制作当初の画面の状態をよく止めており、色調にも経年の影響が少ないと推測される。これらの作品の比較からは、貞綱の彩色の手順や作品へのこだわりなど、絵画理論に関わる要素を窺い知ることができる。 一方、貞綱は「徳應二世」を自称しており、この白文長方印を法然院所蔵「阿弥陀聖衆来迎図屏風」と安国寺所蔵「八相図」に捺印している。また、福岡市立美術館所蔵「観音図」と近似する図様の「聖観音像」を東京国立博物館が所蔵しており、これは木村徳応の制作である。これらからは貞綱と徳応とに作品制作に関わる関係性が見出される。特に貞綱においては徳応が重要な存在だったと考えられ、貞綱の絵画理論には徳応の影響を推測できる。そこで、徳応の作品調査を実施することとした。調査対象は、安国寺所蔵「八相図」と共に伝来する徳応筆「涅槃図」と、前述の「聖観音図」とし、特別閲覧による目視調査と簡易的なデジタル画像撮影を行なった。 これまでの研究成果発表として「新出 木村貞綱筆『十三仏来迎図』の絵画材料と絵画技術からの考察」と題し、文化財保存修復学会第45回大会でポスター発表を行った。ここでの意見などを加味し、さらに改良を加えた内容で金沢美術工芸大学紀要第68号に改めて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染防止対策のため作品調査の実施が遅れていたが、当初予定していた木村貞綱の作品調査は完了した。加えて、貞綱の絵画理論の考察のために必要と考えた木村徳応の作品2点の特別閲覧による現地調査を実施できたことは、貞綱の作品の比較研究に新鮮な視点をもたらしている。 木村貞綱の絵画材料と絵画技法について、蓮華寺所蔵「十三仏来迎図」と法然院所蔵「阿弥陀聖衆来迎図屏風」の目視調査及び蛍光X線分析調査、高精細デジタル画像の観察によって以下の様に総合的に解析した。。画絹は目が整っており、江戸時代の特徴を有する。「十三仏来迎図」については裏彩色はない。「阿弥陀聖衆来迎図屏風」では、白色顔料による可能性が推測できる。使用されている顔料は、群青、緑青、朱、鉛丹、鉄系茶色顔料、胡粉、鉛系白色顔料、金箔及び金泥、銀泥、墨であり、江戸時代初期の顔料として妥当である。制作では先ず墨を用いて丁寧に骨描きし、各々の箇所に彩色する。聖衆の肉身は、胡粉と鉛系白色顔料との混色を地塗りした後、金泥を塗布する。一方、来迎雲は胡粉による表現であり鉛系白色顔料は塗られていない。制作当初は染料系絵具による色彩があったと考えられる。また、鉛系白色顔料は、群青の色調を明るくするための混色の素材としても用いられたと考えられる。 並行して図様の形に関しての比較検証を実施している。この時、作品の主題とこれに関連して変化する図様の特徴から来迎図(観音図を含む)、八相図、涅槃図、紙本墨刷及びこれの彩色本の4つに分類した。来迎図では、如来や菩薩など聖衆の顔貌や体躯にパターンが見出せることから型が存在すると推測できる。詳細な図様の調査からは、作品によっては貞綱の筆致や描き方と近似しながらも手の異なる印象を受ける部分があることから、数名による制作を推測できる。形などに関して文化財保存修復学会第46回大会で発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、木村貞綱の使用した絵画材料と絵画技法についての考察を実施した。これと並行して図様の形について、来迎図(観音図を含む)、八相図、涅槃図、紙本墨刷及びこれの彩色本の4つに分類し、それぞれ分類した範疇の中での作品の比較検証を進めている。この比較検証では、聖衆などの顔貌や四肢、体躯、衣裳、装身具、衣裳や聖衆の楽器や持ち物にある模様の他、来迎雲や樹木、家屋、山岳などの形のあり方、筆運びなどによる形の描き方または、型を用いるなど形の作り方について検証する。その後、分類した範疇間での比較検証を実施する。この時、構図の類似性や、作品全体や部分から醸し出される雰囲気や印象にも注視すべきだと考える。 これと並行して、各範疇における配色のあり方を比較検証する。木村貞綱の作品を一見して感じたことは、細部に至る筆致の細やかさと色彩から受ける華やかさであった。このことからも作品にみる配色のあり方は、貞綱の絵画理論に則ったものと考えられ、そこから受ける雰囲気や印象はその絵画理論が大きく反映されているものだと言えるだろう。構図や形、隣接する彩色面や背景などとの関係について着目して考察する。その後、分類した範疇間での比較検証を実施する。その際、分類した作品の主題や制作された時期との関連などを加味する必要があると考えている。 これら形や配色の比較検証の際には、木村徳応の作品の影響も視野に入れる。 これらと並行して再現模写制作による検討を加えることとする。再現模写は、それぞれの課題で検討すべき内容に沿った制作方法をその都度考案して進めることとする。 研究成果は、木村貞綱の作品を所蔵する蓮華寺主催の講演会や、文化財保存修復学会第46回大会、金沢美術工芸大学紀要などで公表し、このフィードバックを得て総合的な研究のまとめを行う。
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