新聞小説を視座とする大正末~昭和戦前期の文学環境に関する基礎的研究
Project/Area Number |
20K00288
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02010:Japanese literature-related
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Research Institution | Nara National College of Technology (2022-2023) Osaka University (2020-2021) |
Principal Investigator |
新井 由美 奈良工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (40756722)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,510,000 (Direct Cost: ¥2,700,000、Indirect Cost: ¥810,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
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Keywords | 挿絵 / 新聞小説 / 木村荘八 / 春陽会 / 報知新聞 / 大衆文学 / 大佛次郎 / 映画 / 中島重太郎 / 白井喬二 / 学芸部記者 / 画壇 / 読者 / 大衆文化 |
Outline of Research at the Start |
大正末から昭和戦前期に発表された新聞小説について、以下の三点を通じて文学史・美術史に渡るジャンル横断的な視点を確立する。 ①新聞小説に関わる文壇・画壇双方の動勢を網羅したデータベースを作成する、②①を通じ、新聞小説に対する読者の潜在的な要望を具体的な形として提示する、③新聞小説を文壇・画壇・読者・新聞社の結節点として捉え体系化すると同時に、モデルケースとなり得る新聞小説を抽出し包括的な検討を行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
大衆文化の隆盛期における新聞小説挿絵および挿絵画家の役割の解明を中心的課題として、文学・美術・映画演劇など隣接領域の相関性について、多角的に調査・分析・考察を行なった。主たる研究実績は次のとおりである。 ①大正末から昭和戦前期の『報知新聞』紙面を通観し、文学・美術・映画演劇の関連記事を中心として精査を行なった。現在は大正十二年一月から昭和六年八月までの紙面を閲覧済みであり、収集した記事は見出し・内容によって「連載小説」「美術関連記事」「挿絵関連記事」「文学関連記事」「映画演劇関連記事」「広告」というジャンルに大分類を行った。今後ジャンルごとの精査を行った上で、大衆文化生成の過程で挿絵という媒体が果たす役割を分析・考察を進める予定である。さらに『報知新聞』以外にも『朝日新聞』『東京日日新聞』『日本學藝新聞』などの新聞を調査し、挿絵画家の協同団体である挿絵倶楽部の存在やその活動実態を明らかにし、紙面には表出することがない新聞記者の肉声を記した資料を新たに発掘した。②信州大学附属図書館所蔵・石井鶴三旧蔵資料の調査を行なった。報告者が研究分担者として参加している科研基盤(C)22K00289の共同研究者と協力して、同館所蔵石井鶴三宛木村荘八書簡約四百点を年代別に整理し、翻字および注釈を付して、本年度に大正十二年から昭和七年までの書簡百二十二点を公開した。この調査を通じて、挿絵制作の実態や洋画団体春陽会の動向など初めて明らかになった事実も多い。③同時代における文学と美術の関連性をより広い視点から捉え実態を把握するために、芥川龍之介「地獄変」を素材とする吉井勇歌・吉村忠夫画によって構成される『地獄変絵巻』(京都女子大学附属図書館蔵)の調査を行なった。その過程で全八枚の絵は雑誌『苦楽』(昭和24年8月1日)所収「名作絵物語「地獄変」」にも使用されたものであることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大にともなう大規模な移動自粛や本務校の校務多忙などから研究に遅滞が生じることを余儀なくされたが、紙面の精査対象を『報知新聞』一紙に絞り込んだ結果、研究の進捗に大きな問題が発生することはなく、概ね予定どおり進んでいる。ただし引き続き高齢家族への配慮の必要性があり、最大の所蔵館である国会図書館にてマイクロリールを逐一確認するための出張調査の回数にはいまだ一定の制限があるため、目標とする昭和十五年までのマイクロリール閲覧を本課題の研究期間終了までに完遂させることは困難である。だが現在は昭和六年八月分までの閲覧および研究上有益と思われる記事の収集は終えており、昨年度の報告書において到達目標としていた昭和五年分の紙面にはすでに目を通すことができた。今後は厖大な記事の整理・分析・考察という作業が残っているが、研究成果の精度確保の観点から、データベースの体裁を性急に整えることはせず、記事の見出しや内容、重要度等を逐一確認しならがの丁寧な考察を優先したい。さらに本研究の過程では、同時代の挿絵文化ひいては大衆文化の形成において挿絵画家木村荘八の存在が殊の外大きいことが判明した。この点については本課題の研究期間が終了した後、新たに科研基盤(C)「木村荘八未公開自筆資料を基盤とした大衆文化形成過程の解明に関する領域横断的研究」(24K03682)において調査研究を引き継いでいく。 信州大学附属図書館所蔵石井鶴三旧蔵資料の調査では、研究者間の協力体制のもと石井鶴三宛木村荘八書簡百二十二点を公開した。書簡を読み解く過程で、洋画団体春陽会と挿絵の関連性にも注目すべきことが判明し、一般社団法人春陽会の事務所には同会のアーカイブとして多数の同時代資料が保管されていることも確認された。今後の重要な調査対象に加える必要性を認めるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
①主たる調査対象である『報知新聞』の閲覧および研究上有益と思われる記事の収集は、昭和六年八月の紙面分までが終わっている。今後はこれら記事の整理・分析・考察という作業を進めていくが、記事の分量は厖大であり、ジャンルも多岐に亘るため、かなりの時間を要する。収集した記事は見出し・内容によって「研究実績の概要」に示したジャンル別に大分類を行ったが、いずれも相当数にのぼるため、その中から「連載小説」「挿絵関連記事」を着手の最優先とし記事の精査と体系化に努める。『報知新聞』は新聞小説挿絵に在野の洋画家をいち早く起用した新聞であり、同紙の連載小説および挿絵の変遷を通時的に把握し考察することで、新聞連載小説という媒体が同時代の大衆文化の一環として展開してゆく様相を明らかにできると考える。同時代の挿絵界の動向や同紙・他紙の新聞記者の存在についても併せて資料収集・考察を行う。 ②これまでの研究において、挿絵を中心とする大衆文化形成の過程においては、挿絵画家木村荘八がキーパーソンとなることを明らかにした。荘八は文筆家としても優れた書き手であり発表された言説は多いが、活字からは窺い知れない画家の肉声や挿絵制作の現場の様相を、荘八の自筆書簡や日記類に探る試みに取りかかる。書簡類については信州大学附属図書館蔵石井鶴三旧蔵資料の調査(科研基盤(C)課題番号22K00289「日本近代文学と近代絵画の関係を中心とする学術領域横断的研究」)、日記・雑録類については東京文化財研究所所蔵資料の調査(科研基盤(C)課題番号24K03682)を、相互補完の観点から併行して遂行してゆく。両者は2024年1月からは、荘八が所属していた洋画団体・一般社団法人春陽会が保管する同会のアーカイブ資料の調査にも着手した。この過程で挿絵に関する同時代資料が多数存在することもすでに確認済みであり、今後も春陽会の協力を得て調査を継続する。
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Report
(4 results)
Research Products
(15 results)