Project/Area Number |
20K00582
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02060:Linguistics-related
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
小田 登志子 東京経済大学, 全学共通教育センター, 准教授 (30385132)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2022: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2021: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2020: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
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Keywords | indirect comparison / phrasal comparatives / Shina / コンテクスト比較の対象 / 多用なFrame Setter / シナー語 / 意味論と統語論 / 「~より」と「~とくらべれば」 / コンテクスト比較の幅広い現象 / コンテクスト比較 / Interpretive Economy / 様々な比較構文 / 比較構文 / コンテクスト / 日本語 |
Outline of Research at the Start |
本研究では日本語の比較構文において「コンテクスト比較 (contextual comparison)」がやはり存在するという仮説を追求する。 日本語比較構文の意味論研究はBeck, Oda, and Sugisaki (2004)以来、急速に活発となった。しかし、Beck, Oda, and Sugisakiが唱えたコンテクスト比較というやや特殊な仮説は大きな支持を得るには至らなかった。 日本語におけるコンテクスト比較の仮説は一見死んだかのように見える。しかし、近年コンテクスト比較の分析は多言語のデータを得て進化を遂げた。また日本語の新たなデータも発見された。本研究では、日本語におけるコンテクスト比較の復活を模索する。
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Outline of Annual Research Achievements |
Beck et al (2004)によって最初に提唱された日本語の「~より」比較構文のコンテクスト依存性の提案は、Kennedy (2007)やSudo(2015)によって反論されてきた。しかし、Hohaus (2015)が 「Compared to NP」 等の英語・ドイツ語表現を用いた比較がコンテクストに依存して行われる精緻な枠組みを提案したことから、この枠組みを「NPよりも」のPhrasal comparatives に適応しすることが可能になった。そして、「NPよりも」のPhrasal comparativesの比較がコンテクストに依存した形で行われることを説明することができた。これにより、「NPよりも」の振る舞いが「Compared to NP」やドイツ語の「Im Vergleich zu NP」に近い事実をストレートに捉えることができた。 また、コンテクスト依存の性質は、従来考えられていたよりも、すそ野の広い現象であることを発見した。たとえば、日本語においては、「太郎の意見は花子と違う」「スーパーで売っている野菜はコンビニほど高くない」といった表現はごく日常的なものである。しかしこれらの直訳は英語・ドイツ語などコンテクストに依存しない厳密な計算で比較が行われる言語では全く不可能である。 さらに、「太郎の成績は花子よりいい」の直訳に相当する表現も、英語・ドイツ語では不可能であるが、日本語以外にもヒンディー語・韓国語・中国語など、幅広い言語で可能であることがわかった。つまり、世界の多くの言語が実はコンテクストに依存した比較のしくみを持っている可能性がある。もしこれが事実であれば、従来の比較構文の見方を大きく揺さぶる発見となる。 以上の内容は2024年2月に韓国行われた学会で発表すると同時に、Journal of Cognitive Science に投稿し、採用されるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「NPよりも」の比較がコンテクストに依存した形で成立していることを、Hohaus(2015)の枠組みを用いて説明することができた。これにより、Beck et al.(2004)で最初に提唱された「~より」比較構文のコンテクスト依存性が存在するという主張を支持するという目的は達成されたといえる。そしてこの内容を査読付き国際学会誌に投稿し、採択されるに至った。 特に、「NPよりも」とドイツ語「Im Vergleich zu NP」が同じふるまいを見せることは、従来の分析では説明できない。このようにコンテクストに依存した比較構文のしくみを用いなければ説明ができない例を発掘したことが成果であると考える。この「NPよりも」と「Im Vergleich zu NP」が同一の振る舞いを示すことは、Kennedy (2017)で説明することは難しい。また意味論ではなく統語論で説明することも難しい。An(2020)には「NPよりも」と似たふるまいを示す「NP-pota」の現象が統語論の削除の現象として説明されている。Anの統語論による分析は「NPよりも」のふるまいを分析するには有効かもしれない。しかし、「NPよりも」とドイツ語「Im Vergleich zu NP」がなぜ同一の振る舞いをみせるのか説明することは非常に困難であろう。 また、今後の研究のテーマを開拓することができた。今までの研究から、比較のコンテクスト依存性は、日本語に限らず、中国語、ヒンディー語、シナー語などのかなり広範囲の言語で観察される現象であることがわかってきた。これは大きなパラダイムシフトにつながる可能性を秘めている。これまでは英語・ドイツ語のような厳密な計算に基づく比較構文が標準的であり、日本語の「~よりも」構文に見られるようなコンテクスト依存性は例外的だとみなされてきた。しかし実は全く反対である可能性を否定できない。
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Strategy for Future Research Activity |
「NPよりも」の振る舞いとよく似たコンテクスト依存の振る舞いを見せることが発見された言語は中国語、韓国語、ヒンディー語、シナー語である。これにHohaus (2015)で論じられたサモア語を加えると、かなり広範囲の言語にコンテクスト比較の兆候があることがわかる。 そこで今後は、日本語の「NPよりも」の研究で得られた知見を別の言語に応用して研究を進めたい。まずシナー語が候補として挙げられる。シナー語は口頭言語であり、これまで英語で記された記録が非常に少ないことから、今までに知られていない事実が発見できる可能性がある。またシナー語が話されているパキスタンではウルドゥー語が国語であるため、シナー語話者のほとんどがウルドゥー語とのバイリンガルであることが2度のフィールドワークを通じて明らかになった。シナー語はいまだ話者が100万程度いるとされ、危機言語ではないものの、若者の間にはウルドゥー語とシナー語を混ぜて話す話者が増え、古いシナー語は失われつつある。したがって、早い時期での調査が望まれる。 コンテクストに依存した比較を行う言語を見つけるヒントはcomparative morpheme の有無であろう。今までに発見されたコンテクスト依存の比較を行う言語には共通点がある。日本語、中国語、韓国語、ヒンディー語、シナー語、サモア語は英語の -er のようなcomparative morpheme を持たない。この観察が正しければ、コンテクストに依存した比較を行う言語を見つけるためには、comparative morpheme を持たない言語を調査することが方法として考えられる。世界の諸言語がcomparative morphemeを持つかどうかはすでにBobalik(2012)がまとめた大がかりな調査結果が存在するため、これを糸口として調査を進めたい。
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