古代アンデスの織物:製作技術の多様性と年代的変遷の研究
Project/Area Number |
20K01088
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03050:Archaeology-related
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅見 恵理 埼玉大学, 教育機構, その他 (90836735)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鶴見 英成 放送大学, 教養学部, 准教授 (00529068)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,990,000 (Direct Cost: ¥2,300,000、Indirect Cost: ¥690,000)
Fiscal Year 2022: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2021: ¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2020: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
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Keywords | アンデス考古学 / 染織品 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、古代アンデスの織物を対象とし、①織技法の考古学視点からの体系的研究、②紡織具の調査、③自然科学的分析(放射性炭素年代測定、炭素・窒素安定同位体分析等)という3つのアプローチによって、紡織技術の実態的な解明、織物の時期的変遷、および古代アンデスの地域間交流の様相を明らかにすることを目的とする。 特に本研究では、織技法や染織品の素材、織る道具に着目し、それらを包括した製作技術の年代的変遷と地域的分布の差異を把握する。その上で、織物の生産システムの変容を考察し、製作技術の変化に反映される社会動態の実態解明に取り組む。
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Outline of Annual Research Achievements |
第1に、研究分担者が所属していた東京大学総合研究博物館所蔵の古代アンデス織物について自然科学分析を実施した。①製作年代の把握:これまで継続して進めてきた製作技法と文様の分析調査により、資料の文化期を把握することができた。しかしながら、各文化期の年代幅は広いため、初期の技法なのか終末期に近いものなのかの特定は困難である。特に技術的変遷や異なる文化間の技術伝播を明らかにするためには、放射性炭素年代測定法によりおおまかな製作年代を把握することが必須である。そのため、文化期や収集した遺跡名が分かっている資料を対象に年代測定を実施した。②獣毛利用の解明:近年の研究動向では、獣毛(リャマやアルパカ等のラクダ科動物の毛)の利用に関する分析データが蓄積している。ラクダ科動物は標高4000mを超える高地に生息するが、砂漠の広がる海岸地域の遺跡からも獣毛を使用した織物が多く出土する。それらの炭素・窒素安定同位体分析をもとにした研究によれば、海岸付近に広がる草原で飼育されたラクダ科動物の毛が使用されていた可能性が指摘されている。獣毛利用の実態を明らかにすることで、高地と海岸の交易関係やラクダ科動物の家畜化の解明等、織物製作にとどまらない多方面の研究に貢献することができる。それゆえ、年代測定と同じ資料を対象に炭素窒素安定同位体分析を実施して、獣毛の生産地推定を行った。 第2に、未だ調査に着手していない資料の分析である。織物が収取された遺跡は古代アンデス文明のなかでもチャンカイ文化の中心的遺跡であり、一括資料の分析はチャンカイ文化研究の進展に多大な貢献となる。すべての資料を箱から出して広げ、状態や大きさ、大まかな文様や製作技法の確認を行い、簡易なリストを作成した。また一部の資料に関しては清掃作業に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定していた自然科学分析を実施した。前年度までに選定していた資料を吟味し、専門家と話し合いながら作業を進めた。 その成果として、まず、放射性炭素年代測定法により製作時期が絞られ、これまで文様と製作技法から推測してきた文化期とほぼ一致したことが明らかとなった。また、製作技法の変遷にも着目して分析を進めた。特に、綟織(もじりおり)は多様性がみられ、その変遷を把握することに注力した。具体的には、綟織は紗と羅に大別され、さらに羅は網綟(あみもじり)と籠綟(かごもじり)に細分される。それらが単独もしくは組み合わされて用いられる例や、平織と綟織による複合的な文様をもつ例がある。さらに、紗をベースに用いたオープンワークやチャンカイレースといった技法もあり、非常にバリエーションに富む。今回の分析ではそれらの時期差を想定したものの、製作時期にほとんど差がないという結果になった。 次に、獣毛利用を解明するために、炭素窒素同位体分析を行った。その結果、地域や時期により異なる生息地で飼育されたラクダ科動物の毛を使用していたことが明らかとなった。チリ北部やボリビアで収集された織物に使用された獣毛は、高地飼育のラクダ科動物の可能性が高い。また、チムー文化やチャンカイ文化の多くは高地飼育のラクダ科動物の可能性が高いものの、チャンカイ文化の資料1点とワリ文化の資料は標高の低い地域で飼育された獣毛の可能性が高いことが判明した。 未調査の資料に関しては、チャンカイ文化の中心であるラウリ遺跡からの一括資料ということが分かった。チャンカイレースをはじめ綟織や綴織(つづれおり)の織物、また数種類の貫頭衣の存在を確認した。詳細な分析は今後の作業となるが、大まかな文様や製作技法、大きさを確認して簡易リストを製作した。一部の資料については、織物の修復家と連絡を取りながら、資料に付着した土や埃の除去作業に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、研究の主軸となる東京大学総合研究博物館所蔵の古代アンデスの織物について継続的に調査を行う予定である。 第1に、放射性炭素年代測定を実施する。これまでの作業において、古代アンデス文明の各文化期にみられる特徴的な文様や製作技術を基準として資料を抽出し、年代測定を実施した。特に綟織(もじりおり)の製作技法に着目をして、文様や技法の複雑度等から時期的変遷を推測してきた。それは同時期に存続したチムー文化とチャンカイ文化の技術伝播の問題ともいえよう。今年度の分析から、およそ同時期に展開したことが推測されるが、資料数の制限もありデータ不足は否めない。今後は他館の所蔵資料と比較して、技法に関する詳細な調査を行うとともに、可能であれば自然科学分析を行う予定である。 第2に、炭素窒素安定同位体分析を行う予定である。今年度の分析から、時期や地域による異なる生息地のラクダ科動物の毛(リャマやアルパカ等のラクダ科動物の毛)の利用が判明した。引き続き、収集した遺跡や文化期がわかっている織物を対象に、年代測定と行うとともに炭素窒素安定同位体分析を実施して時期的な獣毛利用の変遷を復元することを目指す。 第3に、未調査の資料であるラウリ遺跡の織物についての実態解明を進める。ほぼ完形品の織物が多く、製作技法にも多様性がみられるため、チャンカイ文化の中心的遺跡でどのような意匠や技法が選択されていたのかを明らかにできる非常に良い資料である。ただ劣化が進んでいる資料もあるため、さらなる劣化を防止し、適切な保存処理を施す必要がある。その具体的な作業としては、考古遺物の保存修復の専門家の意見を反映させながら進めていく予定である。 その他の国内外の博物館所蔵資料に関しては、各博物館に問い合わせ、調査が可能であれば調査申請を行い、実見してデータの蓄積を行う。
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Report
(4 results)
Research Products
(1 results)