CSR情報開示が企業の社会的責任活動に与えるフィードバック効果の解析
Project/Area Number |
20K02036
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 07100:Accounting-related
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
野田 昭宏 滋賀大学, 経済学系, 教授 (40350235)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | 社会的責任投資 / CSR情報の自発的開示 / 会計報告のフィードバック機能 / CSR情報開示精度 / ESGs / 企業の社会的責任 / サステナビリティ / 社会的責任会計 / CSR情報開示制度 / 企業の社会的責任活動 / 社会的責任投資会計 / CSR会計情報の自発的開示 / CSR情報開示規制 / CSR会計 / 社会責任投資 / フィードバック効果 / 会計報告 / 株主行動 |
Outline of Research at the Start |
本研究は,企業の社会的責任(CSR)活動に関する業績情報の開示がどのような制度的環境の下で企業のCSR経営決定を促進するかをモデル解析にもとづいて解明する。CSR情報が株価を通じて企業のCSR投資水準に及ぼす影響を導出するとともに,CSR情報の強制開示制度が任意開示にくらべて企業のCSR投資水準を増大させる条件を導出する。さらに,株主行動に起因する事後的な企業のCSR政策変更に対するCSR情報開示の影響を解明する。本研究は,企業の任意開示から強制的な情報開示へとCSR情報開示制度環境が国際的に変化している状況で,わが国におけるCSR情報開示制度の整備に向けた基盤研究につながることが期待される。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,企業の社会的責任(CSR)活動に関する情報開示が,企業のCSRに関する経営決定に及ぼすフィードバック効果をモデル分析し,CSR情報の開示が企業のCSR活動を促進する条件を導出することを目的とする。CSR情報の開示が企業のCSR投資に関する経営決定に影響を及ぼすメカニズムを解明し,持続可能な開発目標と整合的な企業活動を促進する情報開示制度の設計へ展開するための基盤を確立する。 初年度は,企業活動の外部性に関して不均一な選好をもつ投資者層から構成される資本市場において,財務報告およびCSR会計情報が公表されるモデルを提示した。第2年度は,企業の決定変数としてCSR情報システムの開示決定をモデルに導入し,当該企業のCSR情報開示政策に対する規制主体の影響を分析した。 本年度は,社会責任投資のネガティブ・スクリーニングに関して2方向に分析を展開し,初年度および第2年度において得られた企業のCSR情報システムの最適選択の特徴の頑健性を確認した。第1は,企業のCSRイニティアティブに関する決定(市場で観察可能)を導入し,当該決定を所与として社会責任投資がスクリーニング投資によって当該企業をポートフォリオ編成から除外するモデルにもとづいて企業のCSR業績情報の精度を導出した。このケースでは,事前のCSRイニティアティブ選択が当該企業の投資対象としての適格性を決定する。第2の方向は,企業のCSRイニティアティブに関する決定が観察不可能な場合に焦点を当て,事後のCSR業績報告に依存して投資スクリーニングが決定されるケースで企業が決定するCSRシグナルの最適精度を導出した。2つのケースについて,社会責任投資が設定するネガティブスクリーニングの閾値が企業が開示するCSR情報の精度に及ぼす影響を明らかにするのが狙いである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の当初計画は次の3点である。(1) 初年度に,証券市場におけるCSR情報開示が株価を通じて企業のCSR投資水準に及ぼす影響を明らかにし,(2) 第2年度以降に,CSR情報の開示政策を内生変数として導入したモデルに依拠して,強制開示制度が任意開示制度に比べてCSR活動への取り組みを促進するかを明らかにする。さらに,(3) CSR情報開示が企業の所有構造に及ぼす影響を分析する。 本年度は,追加分析として社会責任投資のネガティブ・スクリーニングをモデルに導入した場合の企業によるCSR情報システムの最適選択を導出するとともに,過年度の研究成果を公表する目的から国際ジャーナルに投稿し,当該論文に対する査読コメントへの対応を実施した。前者に関しては,企業のCSR投資水準が投資者に観察可能であり,かつ投資水準に依存して社会責任投資がネガティブ・スクリーニングを行う場合,スクリーニングによって投資対象に含められた企業が開示するCSR情報の精度は,ネガティブ・スクリーニングに用いるCSR投資水準の閾値と負の関連性をもつ結果を得た。他方,企業のCSR投資水準が観察不可能であり,かつ事後のCSR業績報告に依存して投資スクリーニングが決定される場合,企業が開示するCSR情報の精度は(適切な条件を満たす場合)スクリーニングに用いるCSRシグナルの閾値と正の関連性をもつという結果を導いた。後者に関しては,論文にとりまとめ,次年度(2023年)に開催される国際学会(European Accounting Association)報告論文として投稿し,ディスカッサントつきパラレルセッションの部における論題報告としてアクセプトされた。これらの成果は,本研究が当初計画していた研究課題を越える進捗状況を示すものであり,本研究は概ね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,本年度の成果を基礎として,当初予定した研究計画スケジュールの第3段階の分析を実施する。すなわち,社会責任投資者の投資決定に関するモデルを拡張し,企業のCSR情報開示が当該企業の株主ベース構成に及ぼす影響を考慮した追加分析をする予定である。 過年度の分析では,企業のCSR情報開示の最適精度が企業の社会的責任に関する業績の事前分布に依存して決定され,市場取引後の株主ベース構成を決定するという結果を得ている。しかし,この分析結果は,事後の株主ベース構成が企業価値に変化をもたらす可能性が存在することを考慮していないという問題点をもつ。企業の社会的責任に関して高水準の選好をもつ株主が事後の株主ベースを支配するようになった場合,CSR活動に関する株主行動を通じて企業活動に関与し,CSR情報精度を決定する時点における既存株主の厚生に影響を及ぼす可能性がある。この場合,事後の株主行動に関する既存株主の予想は,CSR情報開示の精度選択に影響をもたらすことが考えられる。この観点にもとづいて,次年度は,事後の株主行動(CSRに関する株主提案)による影響をモデルに導入した分析へ展開し,拡張された仮定の下で生じる (1) 企業のCSR情報システム選択,(2) 各投資者タイプの株式需要,(3) 均衡価格,(4) CSR情報開示に対する株価反応係数,及び (5) 取引後の株主議決を導出する予定である。 この追加分析は,開示ガイドラインを基礎とした企業の自発的CSR情報開示から,強制的な情報開示規制へ移行しつつある現在のCSR情報の規制環境の国際的な動向において,どのような属性を持つ企業が情報開示規制から逸脱する可能性をもつかについて,知見をもたらし,企業の規制遵守の観点からCSR報告規制の有効性に関して含意を導き出すことが期待される。
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Report
(3 results)
Research Products
(1 results)