Project/Area Number |
20K02097
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
樽本 英樹 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50271705)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
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Keywords | 国際移民 / 市民権 / 社会的境界 / 国際社会学 / 多様性 / 過激主義 / 超多様性 / 比較社会学 / 社会統合 |
Outline of Research at the Start |
移民受け入れ諸国は言語・文化・宗教的背景が大きく異なる移民が定住する「超多様性」の様相を示している。そこで国民国家の変容を捉えるため、「市民権再編」という新たな視角からの考察が必要とされている。 本研究は、超多様化した国民国家の市民権制度の再編とそのメカニズムを国際比較により探究する。具体的には、第1に、指標化によって市民権制度の再編の方向性を客観化する。第2に、指標を欧米諸国だけでなくアジア諸国にも応用し、市民権制度の再編がナショナル市民権から乖離する方向にあるのか確証する。第3に、市民権再編の出現メカニズムを特定する。最後に、国民国家的な社会統合が有効か理論的・実証的に説明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、「移民と市民権」の比較研究に着手した。特に、欧米諸国以外の地域としての東アジアに焦点を当て歴史社会学的な検討を加えた。東アジアという地域は、政治、経済、社会的な側面において広く、かつ多様である。そこでさらに絞って日本、韓国、台湾の3つの民主主義政体に焦点を当てた。宗主国と植民地の関係を経て、3つの政体は経済発展と民主化を達成し、移民を送り出す政体から移民を受け入れる政体へと変化していった。 移民と市民権を探求するために、「軽い市民権」仮説は良い参照点となろう (Joppke 2010)。まず、地位の次元では、国籍継承原理が徐々に変化し、出生地原理と血縁原理の混合ルール、権利としての帰化のとり扱い、重国籍への寛容さが見られる。次に権利と義務の側面では、外国人の権利やマイノリティの権利がより注目されているのに対し、民族の多様化は社会的権利を損なう恐れがあるとされる。最後に社会の多様性に対して、国家はナショナル・アイデンティティの向上を図ろうとしている。東アジアは欧米諸国と同様の傾向を示しているののであろうか。 東アジアの民主主義政体は、「軽い市民権」に収斂する傾向を限定的に示している。その例として、韓国の重国籍、韓国と台湾のナショナル・アイデンティティの向上施策が挙げられる。しかし同時に、東アジアの3つの民主主義政体は、地位の次元で市民権の取得に関して制限的であることに変わりはない。台湾の高い帰化費用と限定された社会的権利の提供、韓国の海外同胞への優遇帰化制度、日本の地方自治体による統合政策、3つ民主主義政体における差別撤廃措置の未整備などがその例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国際移民による多様性と市民権再編にまつわる最も大きな問題として、比較研究に着手できたことは大きな成果であった。また、東アジア諸国の比較研究を行えたことも大きな進展である。日本の統治下において、台湾の人々は1895年、朝鮮半島の人々は1910年以来、それぞれ日本帝国の臣民として認められてきた。第二次世界大戦の敗戦後、日本の法務省民事局長は「朝鮮人及び台湾人は日本国籍を失う」とする通達 (第438号) を通達し、両者の外国人化が進んだ。そして現在、加速する国際移民のグローバル化の中で、東アジアの民主主義政体は近い将来、移民と市民権に関するより重要な問題に直面することが予想される。この問題は市民権の伝統的前提を越えて、誰が国民であるべきか、ナショナル・アイデンティティはどうあるべきかという国民的な議論を巻き起こす可能性があろう。 東アジア諸国の「移民と市民権」を明らかにできたことは、世界的の研究者たちが注目している「超多様性研究」にも大きな示唆を与えるのではないかと期待される。多様性は、移民の属性やプロフィール、そして社会の様態が多様になることを意味し、その中核を示すのが市民権だからである。市民権の「多様性」を把握することは、移民に関する様々な側面の「多様性」を示すことにつながるのである。 このように研究は進展し、理論仮説との関係で欧米諸国へのまなざしは確保したものの、欧米諸国と東アジア諸国との正面からの比較研究になっていない。ひとつの理由として、新型コロナパンデミックによる欧米諸国における現地調査が遅れていることが挙げられる。さらに、同じくパンデミックによって、研究成果を国際学会で発表することをようやく再開できたばかりで、各国研究者との研究討論が十分とは言えない。この意味で、研究はやや遅れつつ進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
国際移民による超多様性と市民権再編に関する比較研究を進めていく上で、各国の移民市民権政策の様態の解明は不可欠でありながらも、本研究ではまだ本格的に着手されてこなかった。もちろん欧米諸国のそれはきわめて重要であり、追尾していく必要がある。特に、過激主義の勃興に伴って、市民権剥奪を可能にする政策をいくつかの国が採用しており、見逃すことができない。 また、アジアに本拠を置く研究者として、まさにアジアの移民市民権政策の様態を明らかにする義務があると感じられる。移民受け入れ政策および移民市民権政策の様態はいちおう明らかにできたものの、その生起メカニズムおよび変容メカニズムについてはまだ解明できていない。東アジアの国々も経済発展や近代化を通じて欧米諸国のそれらに類似していくのであろうか。欧米諸国との比較において、東アジア諸国の移民受け入れ政策および移民市民権政策のメカニズムを明らかにしていきたい。 さらに、東アジア諸国の中でも中国については論じることができていない。また、東アジア諸国だけでなく他のアジア諸国にも目配せをしていく必要がある。さらに、すでに着手した日本、韓国、台湾の中で、韓国の移民受け入れ政策は著しく進展しており、東アジア諸国内部においても移民市民権政策は多様になっている可能性がある。これらについて、欧米諸国における調査を行いながら考察を重ねていきたいと考えている。
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