日本における「教養」概念の成立と展開-Bildung概念の受容の観点から
Project/Area Number |
20K02538
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 09010:Education-related
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
櫻井 佳樹 香川大学, 教育学部, 教授 (80187096)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,990,000 (Direct Cost: ¥2,300,000、Indirect Cost: ¥690,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2021: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2020: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 教養 / Bildung / 変革・変容 / トランスフォーメーション / 操作的教育学 / 指示(Zeigen) / 道徳教育 / 未来 / 和辻哲郎 / ニーチェ / 変容的学習 / Transformative Learning / 日本 / ドイツ / 日独 / 比較思想史 / 教育学 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、日本における「教養」概念の成立と展開を明らかにするとともに、「教養」概念の可能性について考察する。 日本における「教養」概念は、明治末期から昭和初期にかけて成立、発展してきた。和辻哲郎、阿部次郎、三木清、河合栄治郎等の著作、並びに旧制高校という制度的要因を分析することによって、「教養」概念が、いかなる社会的思想的背景のもとに成立したのか、戦前期「教養」概念の特質とは何かを明らかにする。一方で、「変容的学習」Transformative Learning としての 「教養」Bildungを模索するドイツ教育学界の近年の議論を参照することによって、「教養」概念の今後の可能性を展望する。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、2023年3月10日にフライブルク教育大学で開催された操作的教育学会に参加し、発表した「日独の教育学的基礎概念-Bildungからみた操作的教育学」をトーマス・フール他編の操作的教育学論集『反省から操作へ』の出版に向けて、一部精緻化したうえで、10月30日に投稿した。近代日本の教育学は、学習者が日本の学校制度で規定されている以上に自由な自己陶冶に従事できるようにすることを目的として、ドイツのBildung概念を受容した。この論文は、日本の道徳教育の授業分析に基づいて、プランゲの操作的教育学の可能性と限界について論じている。 道徳教育は、学習者に世界を美的に表現し、学習者が自由に考え、判断できるようにしなければならない。 仮に教師が、プランゲの教育倫理学の中で指摘されている、接続能力という倫理原則を遵守する場合には、道徳的自己陶冶は操作的教育学と両立することになることを明らかにした(2024年7月頃に出版予定)。 またドイツ教育学会・教育哲学委員会2023年次大会「共通テーマ:未来-開示と閉鎖の間:教育の未来構想の現代的課題」(オーストリア:インスブルック大学)に参加し、9月22日「現代日本の教育的未来構想の問題:未来と陶冶」を発表した。2021年(令和3年)1月に中央教育審議会より提出された報告書「令和の日本型教育の構築~すべての子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現~」を素材に、日本教育がどのような未来構想を描いているか、またその課題は何であるかについて明らかにした。個別最適な学びを改革教育学的視点並びに社会批判的な視点から、協働的な学びを「学びの共同体」と「日本型」共同体の視点から分析した。また2030年以後の未来社会における人類の変容と教育Bildungの行方について考察した。その後3月末日に論文集への寄稿論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、日本における「教養」概念の成立と展開を明らかにするとともに、「教養」概念の可能性について考察することである。その際ドイツにおけるBildung概念の受容を観点とする。 2023年度は、上記のように、独文による発表と論文投稿を中心に行ってきた。この点は、日本における「教養」概念の成立と展開について、ドイツ人研究者との意思疎通を目指してきたことを意味する。ドイツ人が特異なものと自己理解しているBildung概念が日本にいかに受容され発展されてきたかの歴史に触れることは、日本人のみならずドイツ人研究者にとっても興味深いことであるからである。こうした受容史、とりわけ最近のドイツにおけるBildungをめぐる議論(操作、指示、未来)に触れることは、日本における「教養」概念の可能性を論じる上で、大きな刺激となったと言える。 一方で、2023年度では、さらに日本における教養概念の成立過程に関する研究、特に阿部次郎に取り組む予定であった。阿部次郎は『三太郎の日記』(1914)等で大正教養主義の代表的論者のひとりであり、戦前、戦後を通して、旧制高校生、大学生の必読書の一つとなった。したがって、彼の思想形成において、また著作において、ドイツ的教養Bildungがいかにどのように反映したのかについて解明する。また、日本における教養概念の展開過程に関する研究として、三木清、河合栄治郎に取り組む予定であった。昭和初期、1930年代を中心にマルクス主義思潮の隆盛と軍国主義化による思想弾圧の中で大正教養主義がいかに持続、または変容したかについて明らかにする。さらにそれを読者として受容することができた旧制高校という教育制度的要因を分析し、日本社会における戦前期「教養」概念の特質を明らかにする。 こうした研究課題についての解明が十分ではない。以上の理由から、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度に最終年度を1年延長して研究を継続して以下の点に取り組む。 一つ目は、上述したように日本における教養概念の成立および展開過程に関する研究を解明するために、不十分な解明にとどまっている、阿部次郎、三木清、河合栄治郎に取り組む。それによって日本における教養概念史を明らかにする。それらを通して、青年期の自己形成概念としての「教養」の特質を明らかにすると共に、教養の本質を、ドイツにおけるBildung概念の議論と比較検証する。 二つ目は、マルテ・ブリンクマン教授(フンボルト大学)を招聘し、「練習」Ueben概念と「教養(陶冶)」Bildung概念の違いについて、研究交流を行う。以上を通して、ドイツ的教養Bildungを巡る今日の議論を整理すると共に、変容的学習Transformative Learning、練習概念の新たな解釈、ポストヒューマン時代のBildung等という視座が、日本における「教養」概念の可能性を論じる上で、どの程度有効なのかについて解明する。 そしてこの研究全体の総括を行い、「日本における教養概念の成立と展開―Bildung概念の受容の観点から」に関する研究成果をまとめる。以上、「教養」を巡る研究をインターナショナルな視座で遂行する。
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Report
(4 results)
Research Products
(8 results)