自律と道徳的強制に関わる倫理学的研究―実質的構想とカント実践哲学を手掛かりとして
Project/Area Number |
20K12777
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
田原 彰太郎 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (90801788)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
|
Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
|
Keywords | 自律 / 実質的構想 / 人権 / ライナー・フォアスト / 価値中立的構想 / カント実践哲学 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、現代の自律理論を基礎として自律と道徳的強制との関係を明らかにする。自律と道徳的強制とは通常、道徳的強制が各個人の自律を制約するという仕方で関連付けられる。しかし、現代の自律理論のなかには、行為者が自律的であるためにはある種の道徳的強制を受け入れなければならないという仕方で、道徳的強制を自律の条件として位置付ける立場がある。この立場は自律の実質的構想と呼ばれる。本研究の主たる研究対象となるのが、この実質的構想である。本研究は、この実質的構想という観点から、自律とは何であり、自律を尊重するとは何をすることなのかを明らかにする。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題3年目に当たる2022年度には、オリヴァー・ゼンセン「人権の根拠としての自律」とライナー・フォアスト「人権の意味と基礎」の邦訳を公刊した(どちらも『カントと人権』(法政大学出版局)所収)。 本研究には、カント実践哲学における自律を現代の自律研究のなかで活かすという内容が含まれる。ゼンセンの論文では、人権論という文脈の中で、現代哲学における自律とカント哲学における自律は異なるという認識のもと、カント的自律が現代においてどのような有益な視点をもたらしうるかが論じられている。本研究もまた、現代哲学における自律とカント的自律の差異についての認識をゼンセンの論文と共有し、そのうえで現代の自律理論の中でカント的自律を活かす方法を探るものである。したがって、ゼンセンの論文の邦訳は、本研究にとって同趣旨の先行研究として有用である。ゼンセンは、現在のカント研究において、とくにその尊厳論が注目を集めている研究者である。この邦訳は、ゼンセンの文献の初邦訳であるゆえに、ゼンセンの仕事を日本語圏の哲学研究者に紹介するという意味をももつ。 本研究には、自律を中心としたフォアストの人権論の批判的検討が内容として含まれている。フォアストの論文の邦訳では、人権がどのように理解されるべきかについての主張がフォアスト哲学の中心概念である「正当化への基礎的権利」との関連で明確になされており、さらに、この人権のフォアスト的構想がどのように自律と結びついているかも説明されている。したがって、この邦訳は本研究におけるフォアスト人権論の批判的検討にとっての重要な基礎的資料となる。フォアストは現在世界的に注目を集める哲学者であるが、邦訳された文献はまだ少ない(本邦訳以外には2本の論文の翻訳のみが出版されている)ゆえに、本邦訳はフォアスト研究に資するという点でも有益である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究においては、(1)ライナー・フォアストの思想に関する研究、(2)自律の価値中立的構想に関する研究という二点においてとくに進展があった。 (1)フォアスト自身が、エファ・ブッデベルグとともに、オーガナイズするワークショップ「kritische Theorie und kulturelle Differenz: Ein Deutsch-Japanischer Dialog」(2023年5月開催)におけるドイツ語での口頭発表の準備を中心に研究を進めた。本研究ではフォアストの人権論を中心に扱う予定であったが、2022年度の研究の中でフォアストの中心的研究主題である寛容もまた本研究の進展にとって有益であることが分かった。そこで、フォアストの寛容論も加えるかたちで、本研究の研究対象を拡大することになった。人権論についての研究成果の一部は上述の邦訳として結実し、寛容論についてはの研究成果の一部は2023年度の口頭発表で成果報告することになった。 (2)本研究では、自律の実質的構想を価値中立的構想との対立図式のなかで考察している。当初の計画では、価値中立的構想を実質的構想が乗り越えを試みる対象としてだけ捉えていたが、2021年度の研究に基づき、2022年度には当初の計画よりも価値中立的構想に重きをおいて自律の研究を継続的に進めた。この点の研究においては、「なぜ自律は価値中立的に構想されねばならないのか」という問いを中心に据え、価値中立的構想の支持者が自律の中立性を支持するために用いる議論を、とくにドゥオーキン、クリストマン、マイアーズの諸文献を中心に、収集・分析した。この収集と分析に基づき、これらの議論が実質的構想の問題点の洗い出しにどのように寄与しうるかを明らかにしたうえで、価値中立的構想と実質的構想との相互的な批判的吟味を行い、それを研究成果としてまとめる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度には以下の成果発表を予定している。1,フォアスト寛容論についての研究成果を上述のワークショップでの口頭発表というかたちで発表する。2,上述の自律の中立的構想に関わる研究の成果を論文としてまとめ、それを公表することを目指す。3,上述のゼンセンの論文ならびにフォアストの論文の邦訳に基づく研究成果を、口頭発表のかたちで発表する予定である。この三つ目の口頭発表では、これらの邦訳に基づき人権と自律の関係が整理され、そのうえで、そこで提示された自律が本研究の立場から分析される予定である。 2023年度に新たに行う研究内容としては、以下のものを予定している。 カントの実践哲学を基礎として、実質的構想が抱える問題に取り組む。この問題とは、以下のものである。自律的行為者は道徳的強制を受け入れねばならないということが、実質的構想の中心的テーゼである。しかし、道徳的強制とは、一般的に言えば、他者が定めるものだと考えられている。そうであれば、道徳的強制の受け入れは、行為の当事者にとっては規範の押し付けである場合もあり、この場合には自己決定を本質とする自律を損なうことだとも思われる。この問題を解決するひとつの方法は、道徳的強制を「他者が決めた」ものではなく、「自分で決めた」ものだと言いうる理論的枠組みを用意することである。カントが提示するテーゼは、道徳的強制(義務)を自分で自分に与えることこそが自律だというものである。このテーゼによって、通常は「他者が決めた」と考えられている道徳的強制を「自分が決めた」ものとして理解する可能性が開かれるはずである。カント実践哲学のこの可能性を追求することによって、自律とは何かということを実質的構想という観点から明らかにすることを試みる。
|
Report
(3 results)
Research Products
(3 results)