Project/Area Number |
20K13523
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 07050:Public economics and labor economics-related
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
熊谷 啓希 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (50801643)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2020: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | D&O保険 / 警告効果 / モラルハザード / 会社法 / D&O保険 / 法と経済学 / ホールドアップ問題 / 株主代表訴訟 / 契約理論(エージェンシー理論) |
Outline of Research at the Start |
近年, 社外取締役比率の上昇という社会的な要請に応えるため, 会社役員の損害賠償責任を補償する保険(以下, D&O保険)に加入する企業が増えている. 本研究では, 日本の令和元年改正会社法や実務の状況を考慮し, (1)取締役会が保険契約の内容を決める, (2)保険会社によるモニタリングを考えない, (3)取締役も保険料を一部負担する, という3つの日本独自の新しい要素を導入し分析する. これにより, 日本企業がD&O保険に加入することが、企業価値を高めることにつながるのかを理論的・実証的に明らかにする.
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、Directors&Officers保険(以下、D&O保険)の取締役への保険料の一部負担が、モラルハザードに対する心理的な「警告効果」として経営者のインセンティブを引き出すメカニズムの存在を主張する。 警告効果は以下のように行動経済学の観点から説明できる。人間は注意力が限られた資源であることを意味する「限定的注意力」に直面する場合がある(DellaVigna, 2009; Bordalo et al, 2012.)。このとき、顕著でない部分を無視してしまう傾向がある。負担額の存在はこの種の限定合理性に陥った経営者に警告をもたらす可能性がある。すなわち、プロジェクトの選択等顕著な部分に注意力がとられ、訴訟可能性をはじめとする将来のコストを軽視する経営者にリマインダーとしての機能をもちうる。なお、本年度は限定的な注意力をもつ経済主体を想定したエージェンシー理論の理論研究も先立って行っている。 本研究では、上記の警告効果を前提に、エージェンシー理論を用いて最適なストック・オプション付与単位数を決定するシンプルなモデルを構築し、保険料の部分負担がモラルハザードを緩和し、最適なストック・オプションの付与単位数を減少させることを示す。次に、理論モデルによって予測される結果の妥当性を検証するために、ロジスティック回帰分析の手法を用いて、ストックオプション制度の導入における役員への保険料負担の有無の影響を分析した。この結果を検討した結果、実証的にも支持されることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、昨年度の課題として挙げていた(a)警告効果(リマインダー効果)の行動経済学における妥当性のある説明、および(b)理論研究で得た知見の計量分析による検証を順調に進めることができている。 (a)については、研究実績の概要で述べたように、取締役が2つの限定合理性(自信過剰と限定的な注意力)に直面することで警告効果が生じることが示唆される。特に、先行研究では限定的な注意力をもつ経済主体に対しては、リマインダーをおこなうことで行動変容をもたらしうることが明らかにされており、D&O保険の保険料負担にもこの効果が生じるものと考えている。 (b)について、、令和元年会社法改正で義務付けられたD&O 保険の保険料負担の開示情報をもとに、取締役をはじめとする役員に保険料を負担させているか否かがストックオプション制度の導入にもたらす効果を推定するためにロジスティック回帰分析手法を用いる実証をおこなった。説明変数として、役員規模や社外役員および独立役員の割合といった役員構成の特徴をはじめ、企業規模、財務情報などを考え、実証結果の頑健性を確保するため、保険料の一部負担を内生変数とした操作変数を用いるプロビット回帰分析をおこなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、二つの推進の方策がある。まずは、計量分析のデータを増やし、頑健性を確かめる。本研究では、令和元年改正会社法で有価証券報告書に記載が義務化されたD&O保険の開示データを用いている。今年度の開示データを加えることで、保険料の一部負担をおこなっている企業とストックオプションの導入の分析を進める。次に、新型コロナウイルスの影響により、滞っていた海外ジャーナルへの投稿を推進する。コロナ禍において学会報告をはじめとする研究会への参加が目標に到達しておらず、そのためにフィードバックが不足していた。2023年度は学会報告を行うことができたので、本年度は総決算として当該研究を海外ジャーナルに投稿し成果を共有していく。
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