Project/Area Number |
20K13699
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
朝田 佳尚 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (60642113)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2022: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
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Keywords | 監視社会化 / 制度のエスノグラフィー / 批判的実在論 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、個人が監視カメラを設置した事例を検討し、その意味の共通性を社会的な文脈と結びつけて理解することで、監視社会化を押し進めるメカニズムを明らかにする。また、分析手法として制度のエスノグラフィーを用い、日本の社会病理・社会問題研究における研究に新たな方向性を提示する。申請者はこれまで、地域における関係者の絡まり合いに焦点を当てて調査を実施してきたが、そうした地域の相互作用に影響を及ぼす個々人の意味世界を十分に検討することができなかった。本研究は、個人がなぜ監視を求めるのかを解き明かすことで、現代に頻発する不確実性と集合行動の発生に関する多様な現象を理解するための基盤を提供しようと試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は監視カメラを対象に、その設置に関する過程や語りに表れる共通性に着目することで、社会の監視化を押し進める背景となるメカニズムを明らかにしようと試みる。分析にあたっては制度のエスノグラフィーの手法を援用し、日本の社会病理や社会問題の研究分野に新しい視点を提供することを目指す。従来の申請者の研究は、地域コミュニティにおける相互作用に焦点を合わせてきたが、やはりメゾレベルの分析が中心となってしまい、個人や構造の側面には十分に目を向けることができなかった。それに対して、本研究ではそれらの側面に分析の焦点を合わせることで、人びとが監視を求める理由を多面的に確認し、現代社会の不確実性や集団行動の背後にある複雑な要因を明らかにするための基盤を築くことを目的とする。 本研究は、以下の5つの作業を通じて研究目的を達成しようと試みる。第一に、監視カメラの設置に関わる者がもつ意味を理解するために資料分析を行う。資料に表れる行動や設置の動機、関係者が参照する情報を把握しながら、社会的な文脈との関連性を検討する。第二に、資料分析から得られた結果については、KH Coderを使用して分析を行う。分析から得られた結果をまずは年代ごとに整理し、その概要を把握するとともに、異なった年代においても通底している要因がないか確認する。第三に、批判的実在論の研究を進め、それを方法論の基盤にすえながら分析手法として制度エスノグラフィーを位置づけられないか検討する。第四に、資料分析で得られた行動や動機語り、また通底する要因と不安や不確実性との関連性についても検討する。最後に、得られた結果を権力論や現代社会論として再考し、現代における監視社会化を推し進める要因について、ひとつの理論的な解釈を提示しようと試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度に関しては、前年度までの計画の変更箇所に対応して作業の積み残しに重点的に対応した。とくに上記の作業のうちの①の資料分析、②の通時的な分析、および③の方法論的な研究、さらに⑤の権力論・現代社会論の研究を推進した。ただし、単年度では十分に取り組めない課題もあったために、作業の一部に関しては次年度に回す必要が出てきた。 具体的には、まず資料分析とその通時的な分析については、監視カメラの資料分析を進めるとともに、その概要を把握するためにKH Coderによる分析を試行した。監視カメラの資料に関しては新聞記事データベース、雑誌資料、論文などの複数の資料を想定して準備段階の収集を行ったが、実際の分析の際にデータがうまく扱えるように加工するためには一定の労力と費用が必要となり、それを想定したときに論文には課題が残ったために、今後は新聞記事データベースを中心に雑誌記事を含めながら作業を進めることにした。データベース構築の作業にある程度の目途をつけたのちに、通時的な分析に入った。現在は通時的な分析を進めており、今後はこれらの共通点と相違点に着目しながら、分析結果のまとめに入っている。 また方法論の研究については、夏季にフィリピンで開催された国際批判的実在論学会に参加し、最新の知見を把握した。とくに社会学分野における批判的実在論の意義については、学会でも報告部会があり、多層モデルによる行為と構造の両面的な理解など、古典的でもあるが、それを方法論として位置づける研究報告は、本研究の推進にとっても非常に有益な知見となった。最後に権力論・現代社会論の研究については、古典的な権力論や統治技術論の読解を進めた。あらためて、政治学分野における行為モデルを基盤とした権力論との近接関係についても検討を進め、構築主義以降の権力論の再構成には意義があることを関連分野の研究者と確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究については、まずは資料分析とその通時的な分析を進め、着実にデータの分析から結果を提示することが求められる。まず、資料分析についてはある程度データベース化の目途がたっており、すでに分析の試行もできている。今後は、データ化がまだ終わっていない年代の資料を入力するとともに、資料の正確性を確保するためにデータの確認・修正作業を続け、夏季までには分析にあたって妥当と言えるデータベースの構築を終える予定である。これに続いて、KH Coderによる通時的な分析を進める。すでに試行を終えた分析をふまえ、今後は適宜対象とする年代の範囲を入れ替えながら、表象の変化が認められるか、またそれがあるとして最も顕著となるのはいずれの年代であるのかを特定し、そこでの行動や語りの質的な差異を確認しておく。こうした作業を経た後、監視カメラ設置の行動や動機語りの特質と、その背景となる社会的な文脈についての理論的な解釈に向かう。 同時に、方法論と手法の研究についてもこれまでの成果をまとめる作業を行う。方法論については分担執筆による書籍の刊行を想定し、本研究にも関連する成果を1つの章として公表する予定である。また分析手法については、上記のデータ分析に応用し、社会的な文脈の共通性について言及するための手続きとして活用することを目指す。さらに、権力論・現代社会論の研究についても整理をしつつ、その成果の一部をデータ分析結果と照らし合わせ、監視化を進める社会を読み解くために援用する予定である。以上の取り組みについては、夏季から秋季にかけて学会で報告するとともに、そこでの議論をふまえて冬季には論文を投稿する予定である。また、この作業の途中で可能であれば研究ノートを執筆し、その成果の一部を公開することも検討する。
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