信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」の統合―マルチレベルアプローチ―
Project/Area Number |
20K14140
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 10010:Social psychology-related
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
福島 慎太郎 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (80712398)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2020: ¥2,990,000 (Direct Cost: ¥2,300,000、Indirect Cost: ¥690,000)
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Keywords | 信頼 / 安心 / 解き放ち理論 / 根ざし理論 / 信頼性 / 規範 / マルチレベル / 根差し理論 |
Outline of Research at the Start |
集団メンバーに限定された信頼関係は、他者一般に対する信頼の形成を抑制するインセンティブ構造として機能する。このことを前提とした信頼の「解き放ち理論」は、国際比較調査および実験室実験によって支持されてきた。しかし、国内の地域社会群を対象とした調査は、逆に集団メンバーに対する信頼に基づいて他者一般に対する信頼が形成されるという信頼の「根ざし理論」を支持している。 本研究では、これら理論の齟齬を解消するために、個人レベル(直接的な関係を持つ個人間)では信頼の「根ざし理論」が支持されるが、集団レベル(集団全体でメンバーが信頼し合った環境)では信頼の「解き放ち理論」が支持されることを示す。
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Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、2021年度に行った日米プレ調査データを分析した。その結果、本人の信頼性に基づいて「能動的な協力関係」を築く人ほど内集団の規範を逸脱することを許容するのに対して、他者に対する信頼に基づいて「受動的な協力関係」を築く人ほど内集団の規範を逸脱することを許容しないと同時に外集団メンバーを忌避する傾向にあることが示された。 これらの結果から、内集団メンバーに対する信頼が相互協力を求め合う規範として機能する際に、集団規範「解き放ち理論」が成立することが示唆される。ただし、プレ調査データの分析では、個人単位(ミクロレベル)で生じるメカニズムと集団全体(マクロレベル)で生じるメカニズムの双方を考慮できていなかった。そこで、それら階層的なメカニズムを考慮したマルチレベル分析を用いた分析を行うために、新たに日米の地域社会群を対象とした日米本調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、信頼の「解き放ち理論」と「根ざし理論」を統合することを目標として行われた。 2020年度に行った国内調査データを分析した結果、1)個人間で自分と類似した他者とつながる「ミクロレベルの同類結合」は社会的な流動性が高い個人でより強く確認され、この過程で「安心」と「信頼」の形成を促進する「根ざし理論」が成立すること、2)住民全体の心理傾向が類似するマクロレベルの「同類結合」は住居の流動性が低い地域社会でより強く確認され、この過程で「安心」が「信頼」の形成を抑制する「解き放ち理論」が成立することが示唆された。 2021年度に行った日米調査データを分析した結果、アメリカ調査参加者は本人の信頼性(本人が利他的な行動を取る人物であるかに関する認知)に基づいて「能動的な協力関係」を築く傾向がある一方で、日本調査参加者は他者に対する信頼(他者が利他的な行動を取る人物であるかに対する信念・期待)に基づいて「受動的な協力関係」を築くことが示された。 2022年度には日米調査データに対して国を切片とした一般線形モデルを用いた分析を行った結果、本人の信頼性の高い「能動的な協力関係」を築く人ほど内集団の規範を逸脱することを許容するのに対して、他者に対する信頼の高い「受動的な協力関係」を築く人ほど内集団の規範を逸脱することを許容しないと同時に外集団メンバーを忌避する傾向にあることが示された。 国際調査の結果は研究当初は想定していなかった知見であり、この点では当初の計画以上に研究が進展していると言える。一方で、当初に設定した本研究課題の目的である親密な個人間のミクロレベルのプロセスと集団全体のマクロレベルのプロセスを弁別した分析の精緻化は十分ではなく、この点では研究の進捗が遅れていると言える。これら両面の進捗状況を総括して「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに導かれた国内調査と国際調査の結果を統合すると、次のようにまとめられる。 1)本人の信頼性に基づいて能動的に協力関係を築く社会では、他者の利他行動もその人の信頼性に根ざしたものであると認識することで、身近な他者との間の「安心」が他者一般に対する「信頼」の形成を促進する「根差し理論」が成立するのに対して、2)他者に対する信頼に基づいて受動的に協力関係を築く社会では、他者の利他行動もその人の信頼性に根ざしたものではなく利他行動が期待できる「安心」環境に置かれているためであると認識することで、身近な他者との「安心」が他者一般に対する「信頼」の形成を抑制する「解き放ち理論」が成立することが考えられる。 今年度は、新たに行った日米本調査データに対してマルチレベル分析を行うことで、安心が信頼の形成を促進・抑制する階層的なプロセスをより精緻に検証する。より具体的には、1)信頼の「根ざし理論」は本人の信頼性を基盤として個人間(ミクロレベル)で生じるプロセスである一方で、2)信頼の「解き放ち理論」は他者を信頼し合った集団が互いの利他行動を期待し合うことで集団全体(マクロレベル)で生じるプロセスであることを検証する。
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Report
(3 results)
Research Products
(11 results)