Research Project
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
性的に未成熟な脳に対する性ステロイドホルモンの作用は、成体マウスの社会性や行動の性差を決定づけることが知られている。成体雄マウスの社会行動の一つである攻撃行動の表出は、思春期発動後に徐々に上昇し成体期において最大となる。これには精巣から分泌されるテストステロン量の上昇が関与している可能性が考えられるが、思春期中においてどの神経核に対するテストステロンの作用が、攻撃行動の成熟に影響するのかほとんど不明である。本研究では、テストステロンと間接的に作用するエストロゲン受容体の発現に着目し、思春期におけるその局所的な発現が、攻撃行動神経回路の成熟に関与する可能性を研究する。
雄マウスの攻撃行動は、思春期を境に増大し成体期で最大となる。その攻撃行動の成熟には、思春期に分泌量が増大するテストステロンの作用が重要である。特に、エストロゲン受容体β(ERβ)を介したテストステロンの作用は、雄マウスの攻撃行動の抑制に関与することが報告されている。しかし、マウス脳で局所的に発現するERβを介したテストステロンの作用が、思春期において攻撃行動の表出に関与する神経核の成熟に与える影響については不明な点が多い。本研究では、攻撃行動に関与する神経核において、ERβの発現が、思春期中に変動することで神経核や攻撃行動回路の活動が活性化されるという仮説を基に研究を進めてきた。最初に、雄マウスを用いて、外側中隔、内側扁桃体、視床下部腹内側核、縫線核などの攻撃行動の制御に関与する神経核において、思春期開始時(生後4週齢)と思春期終了時(8週齢)とでERβ発現細胞数の変動が起こるかどうか解析した。外側中隔や縫線核は4週齢と8週齢で差はほとんど見られなかった。一方、内側扁桃体におけるERβ発現細胞数は4週齢から8週齢で有意に増加した。逆に、視床下部腹内側核では有意に減少し、その発現細胞は、ほぼ消失した。そこで、思春期における視床下部腹内側核のERβ発現細胞の消失が、マウス攻撃行動の成熟に関与する可能性を第一に考え、研究を進めた。次のステップとして、ERβの発現を局所的に阻害した際、思春期の雄マウスにおいて攻撃行動が促進されるか実験を行った。