緑青からの炭素抽出法の開発と,青銅器に対して炭素14年代測定法がもつ有効性の実証
Project/Area Number |
20K20718
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 3:History, archaeology, museology, and related fields
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥6,240,000 (Direct Cost: ¥4,800,000、Indirect Cost: ¥1,440,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2020: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | 青銅器 / 緑青 / 炭素14年代測定法 / 炭素14年代測定 |
Outline of Research at the Start |
本研究には2段階の研究目的がある.まず,第一の目的は,炭素14年代測定法を青銅器に適用するために,真空中において緑青から二酸化炭素を発生させる種々の炭素抽出法の開発を行い,かつ,より高収率で,より正確な年代を与える反応条件を確定することで,緑青からの炭素抽出法を確立することである.第二の目的は,考古学的視点から制作年代・使用年代の判明している青銅器の緑青について測定を行うことにより,従来不可能とされてきた青銅器に対する炭素14年代測定法の有効性を実証することである.
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,緑青からの炭素抽出法を開発することを第一の目的とし,その上で従来不可能とされてきた青銅器の緑青を直接試料とした14C年代測定法の有効性 を実証することを第二の目的とするものである. 緑青を試料とした14C年代測定法の開発を目的として,本研究では,「短時間の反応で,外界からの炭素混入の影響なく,緑青からCO2を放出する」という三条 件を満たす緑青の分解温度を求めた.その結果,真空中において200~250℃,1時間以下の加熱により,CO2を得ることが可能であると結果を得た.しかし,測定 例が蓄積される中で,250℃以下ではCO2放出が低収率となる事例が確認されるようになった.一方,300℃以上では高収率となるものの,外来炭素汚染の影響を 受けている可能性が示された. そこで,250℃以下の加熱では低収率となる問題に対しては,従来のグラファイト化法に代わるものとして,より少量での測定が可能であるセメンタイト化法に 着目した.この手法の適用可能性を示すため,同一の試料についてグラファイト化・セメンタイト化を行い,各々の14C年代を測定した.その結果,後者の方法 で得られる14C年代値は,測定精度が低下することがあるものの,おおむねグラファイト化法で得られる年代と一致することが示された. また,常温の真空中において,緑青を リン酸と反応させることで,有機物の分解なくCO2を放出させる手法の改良についても実施した.しかし,Cu以外の金属の炭酸塩を分離することは困難であり, この湿式法による調製では正確度の高い14C年代を得ることはできないことが示された.さらに,加熱分解法により,考古学的年代の既知である資料についての測定事例を蓄積し,第二の研究目的である青銅器に対する14C年代測定法の有効性が実証されつつある段階にある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究結果から,以下の点が示された.(1)リン酸分解法では,Cu以外の金属の炭酸塩との分離が困難であり,正確度の高い14C年代を得ることはできない.(2)300℃以上の加熱分解法では,高収率であるが,土壌有機物の影響を受ける事例がある.(3)200~250℃,1時間以下の加熱分解法では,外来炭素汚染が少ないが低収率となり,従来のグラファイト化法が適用できない事例がある.(4)低収率試料に対して は,セメンタイト化法を適用することで14C年代測定が可能である.(5)セメンタイト化法による結果は,グラファイト化法によるものとほぼ一致する.(6)ただし,同法の測定精度は低下する.(7)考古学的年代の既知である資料に250℃,2時間の加熱分解法を適用し,14C年代測定の事例を蓄積し,青銅器に対する同法の有効性が実証されつつある.(8)ただし,より広範囲の時代,多様な保存状態の資料についても適用する必要性がある. 本研究の目的は,緑青からの炭素抽出法を開発すること,および,青銅器の緑青自体を試料とする14C年代測定法の有効性を実証することの二点にある.本年度までに,緑青から短時間で低外来汚染のCO2を,収率は低いながらも抽出すること,これにセメンタイト化法を適用することで,緑青自体の14C年代測定が可能となることを示し,一方で,考古年代既知の資料への適用を開始した.この結果は,緑青からの炭素抽出法開発を第一目的とする本研究の大きな成果であり,第二目的である有効性の実証がほぼ示されたものといえる.すなわち,十分な緑青試料を採取できる 青銅器資料では通常のグラファイト化法による14C年代測定が,微量緑青についても測定精度が低下することがあるものの,セメンタイト化法による14C年代測定が可能となったこと,さらに青銅器の使用年代を推定する上で同法が有効な手法となることを示している.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は,本研究の第二の目的である「青銅器の緑青を直接試料とした炭素14年代測定法の有効性の実証」を中心に以下のように研究を推進する.ただし,第一の目的である「緑青からの炭素抽出法の開発」に対しても,現在まで進めてきた真空中での加熱法について得られた研究成果の上に立ち,新たな炭素抽出法の開発を実施する.真空中ではなくある気体の存在する条件下において,かつ200℃ではなく常温において,外来汚染を抑えた上で高収率となる炭素抽出法である.本研究課題の第二の目的である「青銅器の緑青を直接試料とした炭素14年代測定法の有効性の実証」については,より広範囲の時代,多様な保存状態の資料に対象を拡大し,研究を推進する.すなわち,弥生から江戸時代までの,歴史学的な年代が判明している考古資料,および考古遺跡出土品・伝製品・海底遺跡出土品などの保存状態のことなる考古資料より緑青を採取し,250℃での加熱により炭素を抽出し,セメンタイト化法による14C年代測定を行う.その結果を考古学的な年代と比較することで,同法による緑青の14C年代測定が,青銅器の使用年代ないし廃棄年代を知る上で有効な手法となることを実証する.本年度推進する常温での調製法も,その測定精度・正確度が確認され次第,考古学的年代既知の試料に適用し,その有効性を検討する.
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Report
(3 results)
Research Products
(1 results)