Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
寄生者は自然界に普遍的に存在しており、宿主の表現型を様々に変化させることで、宿主と他の種との間の相互作用を改変・形成している可能性がある。しかしながら、寄生関係については、寄生者とその宿主の関係に多くの研究が終始しており、それが生み出す相互作用ネットワークについては国内外を問わず実証例に乏しい。本研究では、生物多様性の維持・創出機構の理解において、「寄生者」を含む新たなパラダイムを発展させるべく、ハリガネムシ類(類線形虫類)が生み出す生物間相互作用ネットワークが渓畔生態系の群集構造や動態に与える影響を野外操作実験によって明らかにした。京都大学和歌山研究林を流れる小河川において、河川に供給される陸生昆虫類をハリガネムシ類の宿主と非宿主に分離して、それぞれの供給量を操作する野外実験を実施した。その結果、魚類(アマゴ)の成長量と底生生物の捕食量、底生生物群集の現存量、および藻類の現存量は試験区の間で異なり、ハリガネムシ類が運ぶ陸生昆虫類が、河川の生物群集・生態系機能を改変する可能性が見出された。一方、一部の落葉分解者の現存量は試験区の間で異なったが、落葉分解速度に違いは認められなかった。本研究は、寄生者が宿主の行動を改変することで、複数の種間相互作用を改変・形成し、群集の構造や動態に重要な役割を果たすという、新たなパラダイムを提示・発展させることにつながる。また、これまで見過ごされることの多かった寄生者の生態学的意義を明らかにすることは、生物多様性保全の意義を実証することにもなる。
All 2010
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