Research Project
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
近年顕著に認められる急激な気候変動によって樹木個体群の死亡と加入パターンの間の不均衡(すなわち、非平衡状態)の程度は増大している。この現象により、これまで集団遺伝学が仮定してきた動的平衡にある個体群動態に基づく理論モデルでは樹木集団内の遺伝子動態を十分に予測できない可能性が考えられる。したがって、今後も急激な気候変動に曝されることが予想される森林群集の遺伝資源の保全のためには、自然現象の変動性を組み込んだより現実的な集団遺伝学モデルに基づく遺伝子動態の予測(すなわち、判断基準の提供)が課題となっている。本研究では、台風による撹乱を受けてきた鳥取県大山ブナ老齢林の森林群集を対象に個体群統計学的調査と遺伝分析から収集されるデータおよび気象データを用いて、非平衡状態にある個体群動態を基礎にした樹木集団の遺伝的構造の形成過程(遺伝子動態)を記述する集団遺伝学モデルを開発し、台風撹乱体制が森林群集の遺伝的多様性に及ぼす影響を予測する。本年度は、既設の固定調査区(面積4ha)内で0.5haサブプロットを設定し、ブナ林の主要構成樹種であるコミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹(樹高30cm以上、胸高直径5cm未満の幹)の毎木調査を行った。その結果、サブプロット内には、コミネカエデ、ハウチワカエデ、ブナの稚樹の幹密度(haあたり)は、それぞれ648本、1548本、3420本であった。また、マイクロサテライト遺伝マーカーによって遺伝子型を決定するために、毎木された稚樹から葉を採取した。以上のように、本年度は、個体群統計学と遺伝分析を実施するための研究基盤を確立した。