Research Project
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
急性肺損傷は、肺における過剰な炎症と肺血管透過性亢進を特徴とし急性呼吸不全を呈する症候群である。リゾホスファチジン酸(LPA)は酵素オータキシン(autotoxin, ATX)により産生されるリゾリン脂質の一つで、多様な作用を持ち新世代生理活性脂質として注目を浴びている。本研究ではLPAおよびATXが急性肺損傷の病態に関与している可能性を考え、まず各種急性肺損傷モデルマウスにおける血中・気管支肺胞洗浄液中のATX酵素活性を検討した。急性肺損傷を惹起させるために、肺炎球菌、大腸菌由来エンドトキシンまたは塩酸水溶液を経気道的に投与し、24時間後血漿および気管支肺胞洗浄液を回収し酵素活性を測定した。血漿におけるATX酵素活性はPBSコントロール群および各急性肺損傷モデル群各群間に差異はなかった。一方、気管支肺胞洗浄液中のATX酵素活性は各急性肺損傷モデル群において、PBSコントロール群に比し有意に上昇しており、特に誤嚥性肺炎モデルである塩酸惹起急性肺損傷モデルで著名に上昇していた。以上の結果からATXおよびLPAが急性肺損傷とくに誤嚥性肺炎の病態に関与している可能性が示唆された。次に、LPAおよびATXの急性肺損傷における役割を明らかにするために、抗ATX抗体を投与により全身のATX活性が抑制されたマウスを用意し、塩酸投与により急性肺損傷を惹起、コントロール抗体投与マウスと肺損傷の程度を比較した。ATX活性が抑制されたマウスにおいて、塩酸投与24時間後および48時間後の気管支肺胞洗浄液中の蛋白濃度、48時間後の気管支肺胞洗浄液中の好中球数及び肺湿重量/乾燥重量比がコントロール群に比し有意に低下していた。本研究成果は急性肺損傷とくに誤嚥性肺炎においてATXおよびLPAが傷害の亢進に寄与していることを明らかにし、ATXまたはLPAの阻害による新規の急性肺損傷の治療法の可能性を示唆する重要な研究成果と考えられた。