Research Abstract |
本研究の目的は,生徒が数学の美しさを感じられるような指導内容や教材について検討し,カリキュラム上にそれらの位置づけを行うことである.この目的を達成するために,数学の美しさを「簡潔さ」「明確さ」「巧みさ」などに分けて定義し,学習指導要領の内容と比較しながら教材の開発を行う.また,指導内容として導入することで,生徒の数学の学習への関心や意欲,態度が高まること,数学の美しさを感じ取る態度が育成されることを統計的に分析し,開発した教材や指導内容の有効性について検討する.分析の方法は,まず,5肢選択法と自由記述の2つの方法を用いた数学の学習に対する態度と美しさに関する意識尺度を作成し,意識調査を実施する.次に,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行い,抽出された因子をもとに因果モデルを作成する.そして,授業の前後における因果モデルのパス係数を比較して,その有効性について検討する. 実践授業は高校1年生の79名を対象に,数学Iの「三角比」と数学Aの「命題と証明」で実施した。「三角比」では数学史を取り入れて弦の表を作成したり,正弦定理を見出したりする活動を,「命題と証明」では背理法や対偶を用いた証明を通して数学的な考え方の巧みさや結果の簡潔さを体験し,数学の美しさを感じ取れるような指導を行った. その結果,調査対象とした生徒は数学の美しさについて「形や構造」「規則性」「数式での表現」の因子を保有しているが,思考過程の面白さやよさ,美しさには意識が向いてないこと,また,感得させることが難しいことが分かった.しかしながら,数学史の内容を取り入れることで,発見の歴史に触れ,数学的な考え方のよさや思考過程の巧みさ,面白さを体感することができ,数学の美しさを感じると同時に数学の学習への関心や意欲,態度が高まることの可能性が示唆された.
|