Research Abstract |
【研究の目的】北海道東部沿岸地域の冬季は,塩化物を多く含んだ凍結防止剤や海霧に晒される塩害環境と昼夜間における寒暖の差により凍結融解が繰り返される凍害環境が複合化し,鉄鋼構造物にとって極めて厳しい環境となる.平成20年度奨励研究(課題番号20919005)により凍結融解温度環境下におかれたオーステナイト系ステンレス鋼溶接材の溶接線近傍において顕著に発生する孔食様相を明らかにした.そこで本研究では,このような現象の原因として考えられる腐食液の濃度変動(凍結濃縮)および濃度のばらつきによる孔食発生への影響を検討した. 【研究の方法】試験片はオーステナイト系ステンレスSUS304冷間圧延材を用い,溶接台車を用いたMIG自動溶接で施工した.腐食液には塩化第二鉄水溶液を用いた.温度環境として,CDF法(RILEM)に準拠した温度変動(最低温度-20℃,最高温度+20℃,12時間で1サイクル)により凍結融解環境を再現した.更に比較のため,+20℃に保持した恒温試験を並行して実施した.またX線回折法による残留応力測定および金属組織観察を行い,さらに溶接シミュレーションによる残留応力分布および溶接熱サイクルの予測を行った. 【研究の成果】本研究により次の結果が得られた.1、腐食液の濃度変動:腐食液の凍結にともなう濃縮により,初期濃度6%の腐食液は,凍結前後で2.7倍にその濃度が上昇することが分かった.このような濃度の上昇は,孔食を促進するものと推測される2、恒温環境下の孔食様相:凍結濃縮に伴う局所濃度の最大値にほぼ相当する14%の腐食液に浸漬し,+20℃恒温環境にさらした試験片においては,溶接線近傍の顕著な孔食がみられなかった.3、溶接残留応力の影響:X線回折法による残留応力測定により,孔食が生じる溶接線近傍の残留応力は600MPa程度であることが分かった.このような大きな引張応力が孔食に影響を及ぼすことが推測される.以上の結果から,凍結融解環境下の溶接線近傍に見られる顕著な孔食においては,凍結濃縮による腐食液の濃度上昇のみならず,濃度のばらつきによる濃淡電池腐食のよる影響があり,それらが重畳して作用しているものと考えられる.
|