Samd9/9L症候群とIFNシグナルから迫るMDS発症の分子メカニズム
Project/Area Number |
21H02948
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 54010:Hematology and medical oncology-related
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
稲葉 俊哉 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (60281292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長町 安希子 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (20585153)
金井 昭教 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任准教授 (60549567)
松井 啓隆 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (60379849)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥17,420,000 (Direct Cost: ¥13,400,000、Indirect Cost: ¥4,020,000)
Fiscal Year 2023: ¥5,070,000 (Direct Cost: ¥3,900,000、Indirect Cost: ¥1,170,000)
Fiscal Year 2022: ¥5,850,000 (Direct Cost: ¥4,500,000、Indirect Cost: ¥1,350,000)
Fiscal Year 2021: ¥6,500,000 (Direct Cost: ¥5,000,000、Indirect Cost: ¥1,500,000)
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Keywords | MDS / monosomy 7 / Samd9/9L / モノソミー7 / Samd9/9L症候群 / Monosomo-7 / Samd9/9L / 骨髄異形成症候群 / 造血障害 / インターフェロン |
Outline of Research at the Start |
骨髄異形成症候群(MDS)は、かつて「不応性貧血」とも「くすぶり型白血病」とも呼ばれたことが端的に示すように、造血不全と腫瘍の両方の性質をあわせ持つ、難解な疾患である。MDS抑制遺伝子Samd9とSamd9L(以下Samd9/9L)は、インターフェロン(IFN)誘導因子をコードするが、その機能亢進型点変異(mut)は先天性骨髄不全症を主徴とする「Samd9/9L症候群」を起こし、経過中に変異側の7qが欠落してMDSを多発する。本研究では、Samd9/9Lの機能解析を通じて、MDS発症の分子メカニズムを解明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
モノソミー7や7番染色体長腕(7q)欠失は、骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の15%にみられる、最も頻度の高い染色体異常である。7q欠失の責任遺伝子のひとつであるSamd9とSamd9L (Samd9/9L)両遺伝子は7q21上にあり、受容体取り込みやエンドソーム交通の制御因子をコードする。近年、Samd9/9Lの機能亢進型点変異が、先天性造血不全を主徴とする「Samd9/9L症候群」患児で多数発見され、対応するSamd9L変異マウスも造血不全を示した。本研究では、Samd9L遺伝子改変マウスを主な材料に、分子細胞生物学的分析を進め、Samd9/9Lの機能を解明することを目的とする。 2021年度は、東京理科大の伊川研究室との共同研究で、正常(+)、Samd9L欠損(-)および変異(m)マウス骨髄から、増殖因子依存性の未分化造血iLS細胞の樹立に成功し、実験系を確立した。 2022年度はiLS細胞の解析により、Samd9Lの変異や欠損がTGFbetaに対する感受性を変化させることを見出した。TGFbetaは造血幹細胞(HSC)を静止期にとどめ、HSCプールが枯渇しないように維持する上で重要な役割を果たすことが知られており、Samd9/9Lの欠損に伴う腫瘍化や、変異による造血障害などの臨床像を説明できると考えられた。実際、Samd9Lが正常(+)、欠損(-)、変異(m)の各マウス骨髄から、フローサイトメーターによりHSCをソーティングしたところ、BrdU陽性率で見たcycling HSCの比率は、(m)マウス由来HSCで著明に増加していた。そこで、トランスクリプトーム解析を行ったところ、iLS(m)細胞では、TGFbetaの標的因子である、造血幹細胞の静止期維持に必要とされる因子の発現低下が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Samd9Lは発がん抑制遺伝子であり、細胞増殖抑制効果を持つので、その機能亢進型変異体(m)は、細胞増殖抑制効果が亢進することが予測される。実際、上述したように、この変異体を持った造血幹細胞を有するSamd9/9L症候群患児には、造血不全症が発症するためか、既存の株化細胞などで発現させることに非常な困難が伴った。これまでに、さまざまな実験系を試行した中で、正常(+)、Samd9L欠損(-)および変異(m)マウス骨髄にE2A転写因子の抑制因子であるId3を発現させることにより、SCF(stem cell factor)/IL-7/Flt-3ligand依存性の未分化造血iLS細胞の樹立に成功したことは大きな進展であった。iLS 細胞は、増殖因子カクテルとフィーダー細胞存在下に旺盛に増殖するので、分子細胞生物学的な解析に必要な大量の細胞が容易に得られる。 iLS細胞をさまざまな条件下で培養し、次世代シーケンサによるトランスクリプトーム解析を行ったところ、iLS(m)細胞では、TGFbetaに対する遺伝子発現プロファイル上、低濃度で感受性が増強する一方、高濃度では感受性が減弱していた。そこで、マウスからHSCを単離し、その性状を解析したところ、HSCにはTGFbetaの強いシグナルが入っていることが判明した。それに加えて、iLS(m)マウスでは、静止期HSCが減少していること、TGFbetaの標的遺伝子で静止期維持に関与することが知られている複数の遺伝子発現に異常が見られることが見出された。 以上、研究の着実な進展が得られており、概ね順調に進展しているとの自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2023年度は、上述の成果を特段に発展させ、iLS細胞を用いて、特に分子・細胞レベルのメカニズムを解明して、研究をまとめたい。TGFbetaに対する感受性の異常には、受容体からのシグナル伝達経路、転写調節レベル、転写後調節レベルの異常が考えられる。貴重な手がかりとして、Samd9/9Lはサイトカインなどの受容体取り込みやエンドソーム交通の制御に関与する結果を得ているので(論文発表済み)、TGFbetaシグナル伝達経路に対するSamd9/9Lの機能を解明する。加えて、われわれはこれまでに、Samd9/9Lの結合パートナーとしてエンドソームタンパク質やアクチン結合タンパク質など、複数のタンパク質を同定してきた。その生理的な意味についてはこれまでも精力的に検討してきたものの、残念ながら詰めきれていなかった。これらのタンパク質の中には、TGFbetaの転写調節や、転写後調節に関与することが知られているものが存在するので、Samd9/9Lはこれらのタンパク質の機能調節を通じて、造血幹細胞のTGFbeta感受性を制御している可能性を考え、検討を進める。 一方、HSC解析においては、従来行われてきたSCFやTPOなど増殖因子を用いて細胞の生存を維持する方法ではなく、増殖因子を低濃度にとどめ、低酸素状態(1%)、無血清の条件下で静止期HSCを最大限に保持できる培養法を確立しつつある。この手法を用いて、TGFbetaの静止期HSCに対する機能を明らかにする中で、Samd9/9Lの機能を解明したい。
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Report
(2 results)
Research Products
(11 results)