Project/Area Number |
21K00002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
千葉 建 筑波大学, 人文社会系, 講師 (80400620)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2024: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
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Keywords | カント / 完全性 / ヴォルフ / ケーラー / バウムガルテン / マイアー / シュヴァープ / 徳の義務 / 徳倫理学 / 熟慮 |
Outline of Research at the Start |
現代の倫理学では、カントの倫理学は「義務論」に分類され、アリストテレス流の「徳倫理学」やベンサムに代表される「功利主義」と対比されるのが一般的である。しかしカント自身は晩年の『道徳の形而上学』において、義務論の枠内で徳論を展開している。本研究は、こうしたカントの徳倫理学の独自性を思想史的に遡って解明するとともに、それが倫理学の理論としてもつ強みについても明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カントが晩年の『道徳の形而上学』で展開した徳論を「義務論的徳倫理学」と見定め、それが有する特徴と独自性を解明することを目的とするものである。 2023年度は、まずカントが『道徳の形而上学』の第二部「徳論の形而上学的原理」で展開した「同時に義務である目的」に関する議論を取り上げた。カントは「同時に義務である目的」として「自分の完全性」と「他人の幸福」の二つをあげ、「自分の幸福」と「他人の完全性」はその対象から除外している。しかし、現代の研究者のなかには、「他人の完全性」も「同時に義務である目的」になりうると主張するものもおり、カントの議論をどう理解し評価すべきかは未解決の問題である。この問題について、本研究はカントの同時代人のシュヴァープがすでに、ヴォルフ学派の議論に賛同しつつ、「他人の完全性」を「同時に義務である目的」として認めることができるとカントを批判していたことを掘り起こし、シュヴァープの議論を導きにして、ヴォルフ学派とりわけヴォルフ、ケーラー、バウムガルテンの三人の完全性と幸福をめぐる議論を調査し、それとカントとの異同を明らかにした。その成果は、カント研究会第364回例会(2月18日、Zoomオンライン)において「自分と他人の非対称性――完全性をめぐるヴォルフ学派からカントへの転換」という題目で口頭発表した。なおこの発表原稿は、修正の後、2024年度中に刊行予定の『現代カント研究16』(晃洋書房)に掲載される予定である。 また、カントが『道徳の形而上学』において「情動」の例としてあげている「怒り」をめぐって、カントの諸々の人間学講義を詳細に分析することによって年代ごとの変遷を明らかにした。その成果は、日本カント協会第48回大会(群馬大学、11月11日)において「カントにおける憤りと怒り」という題目で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、カントの徳論をとくにカントの同時代の思想史的背景に遡ってその独自性を検討することを目的にしているが、2023年度は、ヴォルフ学派のヴォルフ、ケーラー、バウムガルテン、マイアーにおける完全性をめぐる議論を詳細に追跡し、それによってヴォルフ学派の徳論についても一定の見通しを得ることができた。しかし、この成果に基づいてカントの徳論とヴォルフ学派の徳論との関係について考察し発表するためには、ヴォルフの倫理学に関する諸著作やバウムガルテンの『哲学的倫理学』やマイアーの『哲学的道徳論』のさらなる検討が必要な状況である。ただし、こうした両者の関係についての分析を進めるためには、シュヴァープやシュミットのような同時代人の議論が参考になりうることが、これまでの研究から明らかになった。 以上のように、カントの徳論とヴォルフ学派の徳論との関係については、まだ考察すべき点が残されてはいるが、そのための基本的な文献や分析上で参照すべき資料についての調査は十分に実施している状況であり、現状としては「おおむね順調に進展している」と評価することができる。 また、2023年度にはカントにおける「怒り」や「憤り」といった「情動」に関する研究を行い、カントがバウムガルテンの経験的心理学から影響を受けながら、それを超えて独自の見解を彼の人間学講義のうちで提出するに至る過程を明らかにすることができた。この研究によって、カントの徳論と人間学との関連についての新たな研究の方向性を見出すことができた。このことは当初の計画以上の成果であり、この方面での研究も必要に応じて推進していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、①引き続き、カントの徳論をカントの同時代の思想史的背景に遡ってその独自性を検討すること、および②カントの義務論と徳論の特徴をカントのテクストの精読に基づいて再検討すること、という二本柱で推進していく。 ①については、カントの徳論とヴォルフ学派の徳論との比較対照を行う。ヴォルフが徳を一種の「習熟」(Fertigkeit, habitus)として定義するのに対して、カントは一見すると徳を習熟として規定することに反対しているように見えるが、他方では「自由な熟練」という表現を容認してもいる。こうした両者の異同をつぶさに考察することによって、カントの徳論の独自性を浮き彫りにしたい。そのさい、ヴォルフ学派の徳論に関しては、これまでの研究によって、ヴォルフとバウムガルテンとの間に徳と幸福の関係についての理解に違いがあることが確認されたので、徳概念をめぐっても両者の間に違いがあるかどうかに注意しながら分析を進める。 ②については、カントの義務論・徳論において重要なキーワードである「内的義務」や「自己に対する義務」、「不完全義務」といった用語によってカントが正確には何を意味していたのかを考察する。これらの用語は、ヴォルフ学派も含めて近代自然法論者が一般に用いていた術語であるが、カントがこれらの言葉を使うとき、どこまでが伝統を継承したもので、どこが革新的なのかについて検討する。こうした基礎的な作業を通じて、カントの義務論と徳論を正確に理解するとともに、そうした理解に基づいて、従来の研究の問題点を示し、正しい理解を示す作業を行う。 以上のように、カント以前の義務論や徳論の研究と、カント自身の義務論や徳論の再検討をともに行うことによって、最終的にカントの義務論と徳論の特徴と独自性を明らかにすることを目指す。
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