Project/Area Number |
21K00144
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 大輔 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (00282541)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥2,470,000 (Direct Cost: ¥1,900,000、Indirect Cost: ¥570,000)
Fiscal Year 2025: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2022: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2021: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
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Keywords | 日本美術史 / 日本絵画史 / 絵巻物 / 鳥獣戯画 / 日本中世絵画史 / 武士表象 |
Outline of Research at the Start |
平安末期から鎌倉時代にかけて社会勢力として勃興した武士が、同時期の絵画においていかに表象されているかを考察することで、鎌倉時代の絵画史の記述を更新する。 これまで当該期の美術は、公家が文化の力によって武士に対抗するために制作したという文化覇権論もしくは公武対抗史観によって説明されていたが、近年の日本史研究の動向なども踏まえ、公武協調の側面を見直すことで新たな美術史の体系を構築することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和四年度は、「「鳥獣戯画」とアニミズム続考」(『人文学研究論集』6号)に主たる研究成果をまとめた。「鳥獣戯画」の制作背景を、ピーター・クラストルの唱えた「戦争に向かう社会」という文化人類学的概念と絡めて掘り起こすことに努めた。「戦争に向かう社会」とは、強大な権力が出現して部族や地域社会が一大国家に統合されることを回避し、自立した多数の社会の平衡状態を保つために、敢えて闘争状態をつくり出そうとする社会システムのこととされる。求心的な圧力に対抗する遠心的な力を戦争が生み出すのである。 院政期の絵巻物研究では、院の統合的権力を支えるものとして絵巻の存在を考えることが主流となっているが、クラストルの理論は、院政期絵巻研究の視点に新たなオルタナティブを提示する可能性を持っていると考える。「鳥獣戯画」は、一般にカワイイとか楽しいとか評価されることが多いが、実際の画面では、死の表象もしばしば見られる。猿僧正は法会を行っており、蛙は猿と争ったためか腹を出して昏倒している。法会には不吉な鳥とされる梟も描かれている。画面を見るとどことなく殺伐とした空気が漂っているのであるが、そうした動物たちの闘争は、院の権力統合に抵抗する遠心的な力--単純に言えば世の乱れ--の存在を示しているとも言える。 これらは直接の武士表象の議論とは異なるかもしれないが、権門体制論に見られるように、古代の一元的権力が、王家、公家、武家に分解してゆく中で、武士に具現化する武のはたらきというものが、社会的統合に抵抗する遠心的な力を象徴するのであれば、今後、様々な絵画表現に現れてくる武士表象を解釈する際の重要な解釈の枠組みを「戦争に向かう社会」という概念に求めることができると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上記のように「「鳥獣戯画」とアニミズム続考」に主たる成果をまとめたが、そのほかにも「鳥獣戯画」についての研究を進め、来年度以降に発表を行う準備を整えることができた。上の「研究実績の概要」でも述べたとおり、研究は個々の武士の姿というよりも、その機能としての「武」の社会的効用というマクロな視点から武士表象を考えるという方向に進みつつある。それは、社会が一元的に統合されることに強い抵抗を示し、多元化や相対化を志向する遠心的な力であり、武士はその記号として捉えられる可能性があるということである。 こうした統合を拒否し、多元化・相対化を志向する姿勢というのは、絵画に限られるわけではない。例えば、「鳥獣戯画」が作られたのと同時期に流行した連歌は、全体としては一貫した物語を語るわけではなく、部分部分で情趣は刻々と変化し分散的である。あるいは、同じく院政期に流行した今様では、物尽くしといわれる列挙法が好んで使われるが、これも物の名を羅列するだけで、起承転結のある統一的な物語を作ることはない。 「鳥獣戯画」研究においては、以上のように、周辺の文学作品との関連性について考察し共通性をもとに作品の特質を洗い出すところまで進展している。社会的な視点からは、今様や連歌は武士や庶民階級も巻き込んで社会的ムーブメントを形成するのであり、やはり多元化・相対化への志向が武士も含んだ文化集団によって生み出されていることについては注意すべきであると考えている。 文化の側面だけでなく、武士の相続制度が分割相続であり、経済的にも多元化・相対化してゆく構造が社会的に組み込まれており、こうした経済的な側面と文化的な構造の関係性の考察なども新たな課題として浮上してきている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述してきたように、本研究は「鳥獣戯画」という作品を中心に、絵画の中に構造化されて組み込まれた「武」の社会的機能を掘り起こす形で進んでいる。 従って、今後の課題は、「鳥獣戯画」以外の美術作品にも目を向け、「武」の社会的機能がどのような形で作品に組み込まれているのかを明らかにすることが必要になってくる。その際には、「平治物語絵巻」など直接武士を扱った作品を考察するのが早道であると考えている。「鳥獣戯画」では、動物たちの遊びに変形される形で的弓や競馬などの武芸が示されていたが、より直截な形で武士の表象と武の機能の構造を結びつけて考察することで、「武」をめぐる視覚的表層と構造的深層を緊密な形で把握することが可能になると考えている。 「平治物語絵巻」には当たり前のことであるが、典拠として「平治物語」とう戦記物語が存在する。この「平治物語」の語り口も、場合によって武士名の列挙、羅列などがあり、一貫した物語性に抵抗する分散的な箇所が見出される。このような語りの構造と絵画表現の構造との異同を見ることでより考察を深めることができると考えている。 その一方で、院政期には武士独自の文化も形成されてくる。特に東国で流行した歌謡である宴曲(早歌)は、その詞章の多くが物尽くしであることが知られており、これも分散的・多元的な志向性を持っている。 以上のように、武士と関わる文化の中に、統合的な力の働きに抵抗する分散的・多元的な力を様々に見出すことができるので、そうした力の存在を幅広く掘り起こし、その関係性を追求してゆきたいと考えている。
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Report
(2 results)
Research Products
(2 results)