Textual Criticism, Prosopography, and Codicological Analyses of Peter Idley's Manuscripts
Project/Area Number |
21K00342
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
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Research Institution | Ishikawa Prefectural Nursing University |
Principal Investigator |
工藤 義信 石川県立看護大学, 看護学部, 講師 (70757674)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2021: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 写本制作依頼主の社会的地位 / 社会中流層が入手可能な写本の品質 / 写本収録テクストの入手地域 / 写本装飾の洗練度 / 自己理解及び自己表現としての写本所有 / ミセラニー写本の収録作品にみる所有者の関心 / 15世紀ノリッジの商人が依頼・所有した写本 / 商業者マーク / 写本制作依頼者の文学的関心 / 写本制作依頼者の社会階層 / 15世紀イングランドの地方商人 / 写本の収録作品にみる依頼者の関心 / 歴史的関心と韻文物語 / 歴史的関心と聖人伝 / 写本制作とナショナル・アイデンティティ / 収録テクストの使用言語 / 15世紀英語教訓詩 / 中世写本研究 / テクスト批評 / 写本の筆耕者・編纂者・制作依頼主 / 文学作品の伝播 |
Outline of Research at the Start |
15世紀中葉ピーター・イドリー作の英語教訓詩『息子への教え』の伝播の実態を、現存写本及び関連史料の批判的分析から明らかにする。現存する『息子への教え』の様々なバージョン同士の異同を検討し、それらの関係を示す。各写本に収録された『息子への教え』のテクストの編集上の特徴・言語的特徴を分析し、筆耕者がテクストをいかに変容させる存在かを明らかにする。古写本学的観点から各写本の制作環境・経緯を、筆耕者に関わる史料から筆耕者の社会階層を考察し、地域社会で活動するテクストの媒介者としての筆耕者の姿を浮き彫りにする。以上の知見を総合し、イドリーの教訓詩がなぜ、どのような繋がりを媒介に伝播したのか考察する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ピーター・イドリー作英語教訓詩『息子への教え』が収録されたケンブリッジ大学所蔵の写本1点を、ペアとして認知されているもう1点の写本とともに多角的に分析し、当該写本に見出される上述作品の15世紀中の受容の一端を明らかにすることができた。作品内容と、現存写本の証拠とを照らし合わせる限り、『息子への教え』が主として作者自身と同様の地主階級の人々を想定読者としており、また現実にもそのような読者に読まれていたと考えられる。この点を踏まえ、本年度に分析対象としたケンブリッジ写本が、地方の商人階級の読者のために編纂された写本であることから、同教訓詩の読者の社会階層の拡がりを示す特異な事例であることを指摘し、その認識のもと、同写本における作品受容の特質について考察した。 2写本についての研究成果を、日本語の論文集への寄稿論文1点と、アメリカの書物史分野専門学術誌掲載の英語論文1点として公表した。日本語論文では、2写本内のいかなる証拠から、中世イングランドの商業都市ノリッジの商人のために制作されたものだと考えられるのかを論証しつつ、収録作品の組み合わせから制作依頼主のどのような関心が窺えるのかをテクストの分析を通して指摘し、イングランド地方都市商人階級の読書文化が垣間見える事例として2写本の重要性を提起した。英語論文においては、一方では制作依頼主や関連人物に関わる歴史資料の調査から推定可能な制作依頼主の社会的地位について詳しく論じ、他方で写本内の装飾の洗練度や、収録テクストを書写するための手本として入手したテクストの不完全さ、さらに手本の入手できた地域に限界があった可能性を指摘した上で、本事例から考えれる制作依頼主の社会的地位と写本制作環境との連関について明らかにした。結果として、15世紀イングランドの書物生産の様相に関わる知見を社会史的側面から深めていくことに寄与できたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケンブリッジ大学所蔵のペアの2写本の分析考察結果について、日本語論文1点に加え、制作依頼主に関わる資料や写本内装飾の洗練度に関する分析を含めた英語論文1点を海外学術誌から公表することで、研究計画時に掲げていた3つの小課題のうちのひとつ―個別の写本の分析を通して、イングランド地方都市におけるピーター・イドリー写本の筆耕者、装飾画師、写本制作依頼主がどのような社会的地位にあり、テクストをどのように変容し伝え、受容する主体であったのかを明らかにすること―を着実に前進させることができた。とくに英語論文においては、一事例の分析のみからより一般化された結論を導くことはできないことを前提としながら、文学的テクストに関心を寄せていた15世紀イングランド地方都市の中流階層の人々にとって、それぞれの社会的地位に応じてどのような写本が入手可能であったのかという問題を提示することができた。この問題を継続的に考えていくことの意義を一事例の具体的考察を通して伝えることで、中世後期イングランドの書物生産の状況についての理解を社会史的観点から深化させていくことに貢献するという、本研究のねらいのひとつを達成しつつあり、その意味で順調に進展していると結論できる。本年度公表できた研究成果は今後、他のイドリー写本の分析を進めていくうえで同じ観点を推進していくための土台となると同時に、それらの分析結果の比較対象となる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2023年度以後も個別のイドリー写本の分析を進め、写本の筆耕人、装飾画師、制作依頼主の社会的地位と、テクスト内部の改変、写本のコンテクストを踏まえたイドリー教訓詩の受容について考察し、各々の写本の制作に関わった人物群のテクスト内外での営みを立体的に捉えていく。 これまでの2年間は、コロナ禍における様々なレベルの行動制限とリスク回避のため、イドリー写本を所蔵する海外の図書館にて現物調査を実施することができなかった。今後、現物調査の期間を設けることが可能となった際には、これまで進められなかった分も含め、3写本前後のまとまった調査を実施することが必要となる。引き続き現物調査が可能な期間について検討するとともに、現物調査が可能になった時のための予備的調査等の準備を整えておく。 個別写本の分析に加えて2023年度は、3年後の研究課題完成を見据え、『息子への教え』の内容自体の分析を進める。すなわち、イドリーの教訓詩そのものが、15世紀中葉の世相を背景に、当初の想定読者層に対してどのような教訓を説いていたのかを分析し、社会背景に照らした同教訓詩の特質を明らかにする。個別写本の分析は、そうした作品の特質がいかに変容を遂げたかを見ることとなり、作品分析は1つの教訓詩の伝播の過程における変容のストーリーの起点を与えてくれる。 2024年度及び2025年度は、3つの小課題のうち残りの2つを順に進める。1つは、1940年以降に新たに発見された3写本を含め、現在知られる全ての写本に残された『息子への教え』のバージョン同士を詳細に比較し、写本同士の関係を吟味することで、作品の伝播の過程に関する知見を刷新する。最後の1つは、『息子への教え』が主としてどのような人的つながりを媒介に伝播したかを総括しつつ、15世紀中葉から後期にかけての読書文化の地理的拡がりの様相を新たな観点から描出する。
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Report
(2 results)
Research Products
(3 results)