「日本」を語るオリエンタリズムと「民話」の「都市」・「資本主義」批判
Project/Area Number |
21K00388
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
遠田 勝 神戸大学, 国際文化学研究科, 名誉教授 (60148484)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
|
Budget Amount *help |
¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
|
Keywords | 「雪女」 / ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 / 辺見じゅん / 木下順二 / 民話 / 松谷みよ子 / ジャパノロジー / オリエンタリズム / 怪談 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、まずは第一に、ラフカディオ・ハーン等、明治のジャパノロジストによって英語化された、日本の伝説・物語などが、日本に逆輸入され、そのリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブと、オリエンタリズムに由来する他界・異文化描写が、日本の語り手たちに影響を与え、「民話」という、新しい文芸の創出に寄与したことを実証的に後付ける。第二に、これら「民話」が、戦後、演劇からテレビアニメへと拡散していくなかで、「都市」・「資本主義」的価値観への批判的傾向を強め、そのなかに「日本」を語るオリエンタリズムに内在していた、西洋近代への批判的視座が継承されていたことを論証する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは、まずは第一に、ラフカディオ・ハーン等、明治のジャパノロジストによって英語化された、日本の伝説・物語などが、日本に逆輸入され、そのリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブと、オリエンタリズムに由来する他界・異文化描写が、日本の語り手たちに影響を与え、「民話」という、新しい文芸の創出に寄与したことを実証的に後付けることである。第二に、これら「民話」が、戦後、演劇やテレビアニメへと拡散していくなかで、「都市」・「資本主義」的価値観への批判的傾向を強め、そのなかに「日本」を語るオリエンタリズムに内在していた、西洋近代への批判的視座が継承されていたことを論証することである。 より具体的に言えば、まずラフカディオ・ハーン等、明治期の英米系ジャパノロジストによって英語化された、日本の伝説・物語などが、そこに含まれるリアリズムとサスペンスを基調とする近代西洋のナラティブと、オリエンタリズムに由来する他界・異文化描写により、日本の語り手たちに影響を与え、「民話」と呼ばれる、新しい地方の口承文芸の創出に寄与したことの論証である。次には、「民話」が戦後、禁圧された日本のナショナリズム・国家神話に代わる、安全な「懐旧」「愛郷」の物語として歓迎され、活字から舞台、テレビアニメへとメディアを超えて拡散していくなかで「都市」・「資本主義」的価値観への批判的傾向を強めていくが、このような「民話」の批判的視座には、もともと日本を語る英米系オリエンタリズムの旧日本礼賛に内在していた、新日本及び西洋近代への批判的視座が、継承されていたことの論証である。 以上のような本研究のテーマを踏まえ、本年度、2023年3月、『「雪女」、百年の伝承――辺見じゅん・木下順二・鈴木サツ・松谷みよ子・ラフカディオ・ハーン』を単著・単行本として刊行した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の目的は、戦後「民話」の「都市」「資本主義」への批判的視座の獲得と、メディアへの展開を検証するために、まず初めに、その転換を主導した木下順二とラフカディオ・ハーンの関係をとりあげ、両者の関係を作品の構造と執筆状況の検討から解明する。木下順二は、いうまでもなく戦後を代表する英文学者・評論家・劇作家であるが、その執筆活動のはじまりは、ラフカディオ・ハーンの研究であった。木下が、戦後、執筆・上演した『夕鶴』は、佐渡地方に伝わる単純な異類婚姻譚に、都市および資本主義批判を盛りこみながら、なおかつ、美しい郷土、懐かしい昔の物語という体裁を保つことに成功した民話劇の代表作である。この点、同じく異類婚姻譚の枠組みに危険なロマンスを組み込み、なおかつ、日本の口承「民話」という体裁を「偽装」することに成功した、ハーンの「雪女」に、その性質と構造が酷似していた。木下の「民話劇」の特徴は、単純素朴な物語に、鋭い社会批判、とりわけ、農村社会と対立する「都市」「資本主義」的な価値観への批判を盛り込んだ点にあるが、チェンバレン、ハーンらの在日オリエンタリストによる日本の「物語」もまた、西洋近代への批判的視座を含んでいた。しかし木下が戦後の文壇に登場したとき、両者の政治的思想的スタンスは正反対の位置にあり、木下がハーンへの言及をやめたために、両者の関係が学術的に論じられることは、これまで一度もなかった。しかし、それぞれが「民話」の近代化に果たした役割には共通点が多くあり、主要な作品における影響関係がなかったはずがない。本研究はまずこの課題に取り組むが、その研究成果を単著として公刊できたので、目標はおおむね達成できたといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の課題は、童話作家、松谷みよ子など戦後に現れた「民話作家」についてである。松谷の処女作『信濃の民話』は、出版界でベストセラーとなって、演劇における木下とともに戦後の「民話」ブームを牽引した。松谷はまた、当時、放送を開始したばかりのNHKテレビに人形劇の脚本執筆し、さらにはアニメーション映画への原作の提供なども行い、「民話」のマルチメディア化も先導した。木下、松谷の創始した戦後「民話」の特徴の多くは、その後の人気テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』に結実する。現代の成人の多くは、こうして、「口承」でも「書承」でもなく、いわば「視承」により、「民話」にふれ、「ふる里」のイメージを形成したのだが、この番組、あるいはアニメ化された「民話」と、現代のわれわれが抱く「昔ばなし」や「ふる里」の概念の関係もまた、学術的には手つかずのままである。本研究は、この点を具体的作品の構造と成立状況を通じて、専門分野横断的に考察・検証することで、わたしたちが日常的に愛着する「郷土」や「昔」の物語の組成を確かめ、より複眼的で、かつ根源的な視点から、わたしたちの「愛情」・「信仰」と「物語」の緊密で深いつながりを考察する予定である。
|
Report
(2 results)
Research Products
(4 results)