Project/Area Number |
21K00419
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
大塚 直 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (70572139)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,120,000 (Direct Cost: ¥2,400,000、Indirect Cost: ¥720,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | ホルヴァート / ヴァイマル共和政 / バイエルン革命 / 民衆劇・社会劇 / ナチズム / 抵抗文学・亡命文学 / ホルヴァート研究 / ヴァイマール共和政 / ファシズム・ナチズム / 民衆劇・戯曲分析 / 群衆・大衆・小市民 / 亡命文学・抵抗文学 / 政治難民・ユダヤ人問題 / 社会劇 |
Outline of Research at the Start |
劇作家ホルヴァートは、ヴァイマル共和政からナチ時代へと至る不穏な時代を描いた年代記作家である。一般的にはウィーン民衆劇を新しい民主主義の時代に即して発展させた劇作家だと考えられている。しかし第一次大戦後にバイエルン州で創作活動を開始した彼は、じつはヴェデキントやグラーフら世紀末ミュンヘンおよびバイエルン革命に携わった作家・思想家たちから多大な影響を受けて社会批判的な戯曲を執筆していったと考えられる。これまでの研究史で盲点であった初期社会劇を中心に現地調査や資料のリサーチを行って、初期ホルヴァートの政治的関心や交友関係を洗い直し、言葉と意識を批判的に考察させる彼の作劇法について明らかにしたい。
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Outline of Annual Research Achievements |
科研費を取得して三年目が過ぎたが、年度内に身内の不幸があり、今年度は予定していた海外での現地視察・資料蒐集は行えなかった。しかしホルヴァートの手書き及びタイプライター原稿を複写した新ウィーン全集版が全19巻で完結し、またそれに合わせて作品解説を網羅した浩瀚なハンドブックも出版されたため、二本の論文を執筆することができた。 一本目は、批判的民衆劇の代表作『登山鉄道』をめぐって、劇作家として同時代を活写するホルヴァートの新しい手法について、ストリンドベリやビューヒナーらドイツ表現主義の劇作家からの影響・系譜を指摘した上で、その新規性を写真や映画など虚構の物語性を拒否して、カメラに映り込むがままに日常をスケッチするというヴァイマル共和政時代の新しいメディア環境・文化史的背景から明らかにした。また彼が終生党派性を嫌い、個に関心を置く劇作家となった思想史的背景として、かつてバイエルン革命に参画した劇作家トラーや思想家ランダウアーからの影響を同戯曲から読み取った。 二本目は、同じく初期社会劇に属する戯曲『スラデク』を検証することで、この作品に登場する政治的ジャーナリストのフランツのモデルに、ヴァイマル共和政時代の政治週刊誌『世界舞台』の編集長であったカール・フォン・オシエツキーを想定して、彼がホルヴァートに及ぼした影響を探り、その一匹狼的な立ち位置やプロパガンダに対する批判などを検証した。 その他、ホルヴァートの音楽劇『行ったり来たり』を2024年3月に劇団「東京演劇アンサンブル」が本邦初演したので、その翻訳者・ドラマトゥルクとして公演に携わり、ナチ時代に人権もアイデンティティも突如奪われた政治難民をめぐって、入管法改正が行われた現代日本でも再考すべき問題として捉え、改めて国境や境界線の意味について考察した。 これらの作業により、改めてホルヴァートの持つ射程や現代性が浮き彫りとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
劇作家エデン・フォン・ホルヴァートのドイツ戯曲史における位置付けを考えると、まずは「民衆劇」を再興した人物ということになる。大衆文化が花開いたヴァイマル共和政の批判的観察者として、戦間期の複雑な社会問題を言葉と意識の観点からスケッチした彼の新しい手法は、ハントケ、シュトラウス、ファスビンダー、クレッツら1960年代後半から70年代半ばにかけて旧西側社会で隆盛をみた新主観主義の文学・演劇に多大な影響を及ぼした。 しかしホルヴァート自身のルーツ・出発点はどこにあったのか、西欧戯曲史における彼の立ち位置、および彼の政治的・思想的な考え方の根幹にあるものとは一体何か、とくに初期社会劇について第一次世界大戦末期のドイツ革命の思想との関連を探るのが、今回の科研費のテーマである。 新ウィーン全集版の完結及び『ホルヴァート・ハンドブック』の刊行によって、同時代の犯罪行為を言葉と意識の観点から描き社会諷刺を行う当該作家の軌跡について、体系立てた研究が可能になった。すでに政治的な初期社会劇『登山鉄道』(1929)及び『スラデク』(1929)の内容と構造を検討することで、若きホルヴァートに影響を及ぼした人物としてハンガリー詩人アンドレ・アディに続き、バイエルン革命に参画した思想家グスタフ・ランダウアー、及び後にノーベル平和賞を受賞する『世界舞台』誌の編集長カール・フォン・オシエツキーらの存在を明らかにした。 他には初期に書かれた習作として戯曲『ムーア街の殺人』(1923/24)や『誰もいない』(1924)があり、これらはストリンドベリの戯曲、とくに『幽霊ソナタ』(1908)との関係性を探れそうである。またその後に書かれた『絶景ホテル』(1927)や『会議をめぐって』(1928)は、後のホルヴァートの「女性劇」の直接のプロトタイプであり、当時の女性像や売春問題についても順次、研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、同時代に対する呪詛から出発した劇作家ホルヴァートが、バイエルン革命に参画したランダウアーやトラーから影響を受け、また『世界舞台』誌の編集長カール・フォン・オシエツキーや諷刺作家クルト・トゥホルスキーらと個人的な知己を得て、社会批判的な方向性を学び、正義や民主主義を希求する劇作家へと成長したことを明らかにした。 ベルリン進出後のホルヴァートは、「響と煙」など社会諷刺的なカバレットの舞台も手掛けた演出家ラインハルトからもその才能を注目される。ホルヴァートの戯曲は、じつは劇中劇のようなスタイルで見世物やレヴューを描いていることが多く、政治的内容を深刻な形で提示せず、軽快な音楽とともに示そうとする試みが伺える。バイエルン時代のホルヴァートは劇場や映画館とともにカバレット(演芸場)にも入り浸り、ヴェデキントやファレンティンらの大衆芸能からも刺激を受けている。その意味では、ホルヴァートの新しい民衆劇自体が、社会諷刺と音楽劇への志向を兼ね備えた一種の文学的カバレットのようなものだったとも考えられる。 当時のヴァイマル共和政時代の新しい女性や風俗、舞踊や音楽をめぐって、ホルヴァートと近い立場にいたユダヤ系作家たち、カール・ツックマイヤー、フェルディナント・ブルックナー、ヴァルター・メーリングらとの共通項も探ってみたい。 また社会諷刺的なカバレティストという点では、オーストリアのユダヤ系作家ユーラ・ゾイファーを数え入れることもできる。受容史の上では、ホルヴァート作品の朗読やテレビ映画に携わったヘルムート・クヴァルティンガーも社会諷刺的な戯曲『カール氏』を書いており、両者の影響関係を考察してみたい。 渡欧して政治的な弾圧を受けた彼らユダヤ系作家の足跡を辿るとともに、ミュンヘンの演劇博物館やマインツやグラーツにあるカバレット資料館を訪れて、当時の舞台写真なども確認したい。
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