調音動作の組織化と音声変異に関する理論的・実証的研究
Project/Area Number |
21K00487
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02060:Linguistics-related
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
中村 光宏 青山学院大学, 文学部, 教授 (10256787)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2021: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
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Keywords | 音声学 / 言語学 / 調音動作 / 音声変異 |
Outline of Research at the Start |
本研究では「音声を生成する調音運動の制御には,どのような言語学的条件や生物学的制約が関与するのだろうか」という根本的問題を追究する。音声変異(話者個人の発音習慣や文脈等により変化する音声実現)を対象として,音声データベースから資料を収集し,調音運動の動態観測と統計解析を実施する。集積した音声事実に基づき,調音音声学研究における諸問題を分析し,音声生成研究と言語理論(音韻論)研究との接点を探究する。
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Outline of Annual Research Achievements |
英国標準発音における無声歯茎摩擦音/s/の調音位置後退(/s/-retraction:例 strong> 'sh'trong)の調査分析結果を、第20回国際音声科学会議において報告した。調音・音響データベースを使用し、4名の英国英語母語話者を対象として、舌の接触パタンと舌・両唇の協調タイミングを観測、統計解析を実施した。その結果、/s/の調音位置後退は1名の話者のみに観察され、下唇動作の調音結合は/t/の開放時に最大値に到達することが分った。/s/の調音位置後退には著しい個人差があること、下唇動作は/r/の調音に対応すると解釈できるが、/s/の摩擦ノイズを低くすることにも影響する可能性があることを示した。 /s/の調音位置後退に関連する現象である子音連続/tr/における/t/の破擦音化(/tr/-affrication)の調査分析を遂行し、東京音韻論研究会にて研究成果を報告した。先行研究では、長距離同化と局所的同化という2つのメカニズムが提案されており、/tr/の破擦音化の分析は、調音位置後退のメカニズムを解明するために必要不可欠なステップである。単語頭の子音連続/tr/(例 tree)と単語頭の破擦音/tS/(例 chance)を比較して、調音動作の平坦区間(articulatory plateau)の継続時間を観測し統計解析を行った。その結果、/s/の調音位置後退を行う話者では、/tr/の音声学的実現形[tS]の継続時間が音素的破擦音/tS/よりも体系的に短い一方、調音位置後退を行わない話者では、両子音連続の継続時間に有意差は見られなかった。この結果は、/tr/の破擦音化の音声実現には個人差があり、それは/s/調音位置後退の有無と関連があることを予期させるが、更なる検証が必要である。調音動作の協調パタンと音響学的効果との関連性を解明することが、本研究の今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度研究計画における主要研究課題は、①音声変異における調音タスクの個人差と②個人内・個人間の変動性に基づく音声変異の一般化を探究することであった。 課題①については、/s/の調音位置後退を調査対象とし、その音声実現の実態調査・観測を遂行し、舌動作と下唇動作の協調タイミングに関する個人差を検討した。本研究の成果は、音声科学の主導的な国際学会(第20回国際音声科学会議)にて報告すると共に、会議論文集(Proceedings)に掲載されている。 課題②については、課題①と関連する音声現象である子音連続/tr/における/t/の破擦音化を調査対象とし、音声データベースを使用した調査分析と統計解析を遂行した。調音動作の空間的・時間的特徴を検討し、/s/の調音位置後退を行う話者と行わない話者における変動性を考察した。本研究の結果に基づき、/s/の調音位置後退が生ずるメカニズム(局所的同化と長距離同化)を検討し、東京音韻論研究会にて成果報告を行った。/s/の調音位置後退のメカニズムについては最終的な結論には至っておらず、他の子音連続(例 /spr, skr/や/stj/)に関する音声実現を調査分析し、その結果と合わせて検討を進める計画である。 今後は、音声変異における調音的特徴と音響的特徴の関係についての検討を進め、音形(変異形)選択に対する社会指標的情報(socio-indexical information:例えば、年齢、性別、社会的階層、地域等)との関連性も含めて、多面的な検討を進める計画である。 このような状況から本年度の課題はおおむね達成できたと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度までの研究成果に基づいて、次の3つの課題を中心として仮説検証・調査分析を進め、本研究課題の目標を達成に導くことを計画している。 ①/s/の調音位置後退における調音タスクの個人差と変動性を探求する。これまでの調査分析結果から、/s/の調音位置後退には顕著な個人差と変動性が確認されており、関連する音声現象(/tr/の破擦音化)と合わせて、音響学的特徴を詳細に検討し、/s/の調音位置後退の生成メカニズムを追究する計画である。 ②前年度から検討を進めている「音形(変異形)選択に対する地域社会文法(community grammar)の位置づけ」を探究する。現在までの調査分析を通して、音声変異における個人差は、声道の形態的特徴を反映する一方、話者の社会指標的情報の表出・伝達に関連性をもつ可能性があるとの推察を得ている。本研究課題においては、音声変異と社会指標的情報(例えば、年齢、性別、社会的階層、地域等)との関連性について、先行研究の調査分析結果を出発点として、本研究で取り上げた音声現象について探索的検討を進める計画である。 ③研究成果の公表:これまでの研究成果を総括し、変異現象研究に関する国際学会への発表申請を予定している。現段階では New Ways of Analyzing Variation 52(第52回変異現象の新しい研究国際会議(開催地:アメリカ・Miami Beach Convention Center;11月7~11 月9日)を検討している。
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Report
(3 results)
Research Products
(6 results)