Project/Area Number |
21K00819
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03010:Historical studies in general-related
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
向 正樹 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10551939)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2025: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | 南海地理書 / 地理情報 / 地名比定 / アラビア語碑文 / アイデンティティ / ディアスポラ / Trade Diaspora / Global History / Holy Sentence / Diasporic Identity / Islamic Inscription / Cultural Exchange |
Outline of Research at the Start |
13・14世紀,中央アジアや西アジア出身のムスリム(イスラム教徒)たちが,モンゴル帝国と結びつき中国へ移動し,遠距離交易や帝国の財政運営に活躍した。本研究は,このムスリムの集団がどのようなルートで移動したのかを明らかにするとともに,移動が生み出す新たなアイデンティティの形成について探る。 歴史上のムスリム移民が残した墓石は,現在も移動先の中国のムスリムにとり民族的アイデンティティの中核となっている。ムスリムの移民たちが新たなアイデンティティを形成するうえで,聖典『クルアーン』が果たす役割は無視できない。各地のムスリム・コミュニティではいかなる聖典章句が共有されているのか,現地調査により探る。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題のテーマの一つである,「陸海ユーラシア交通」に関して,本年度の研究作業として次のような進展があった.(1)中国地理書にみえる南海地名情報データ作成。19世紀初頭から近年までの研究成果を参照しつつ学説整理を行い,それらの南海地名が示す具体的な位置を推定し,その緯度・経度をデータに加えていった。その際,a.先行研究によりほぼ位置が確定済のもの,b.複数の候補地で揺れているが一応有力な説があるもの,c.推定はなされているが十分な批判的検証がなされていないもの,d.全く不明なままのもの,に分類した。(2)宋・元時代の南海の国家間関係の視覚化.『諸蕃志』『大徳南海志』は,単に中東~東南アジアの国名を列挙するのみならず,大・小の国家間の統制関係を記している.それらは実際の支配・従属関係を示すものであるのか,交通や遠距離交易における関係性を示すものであるのか,或いは両方を含むものであるのか,検討が必要である.そのため,(1)のデータをもとに,地理情報システム(GIS)ソフトを用いて,中東~東南アジアのどの大国にどういった小国群が従属すると宋・元時代の地理書が認識していたのかが分かるように,マッピングを試みた.その際,上述の(1)の地名比定のうち,すべてのマッピング可能な地名をGISソフトで視覚化したが,確度の高いもの(a・b)のみをマッピングした地図のみを拙著『クビライと南の海域世界』(大阪大学出版会,2024年2月)地図8(283頁)に発表した. 「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」については,2023年5月に神戸モスクやハラールフード店での聴き取り調査も行い,8月の大阪府泉大津市のロシア兵墓地におけるムスリム兵の墓石の3D撮影を試験的に実施し,アラビア語刻文読解を進めた.また3月にシンガポールのアジア文明博物館にて現地出土イスラム碑文等の調査を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度研究期間の半ば以上は依然としてCOVID-19の影響から抜け出しておらず,海外調査はCOVID-19の影響がやや緩和した3月に,シンガポールでの調査を限定的に行うことができただけであった.そのため,本研究計画の主要テーマのうち「陸海ユーラシア交通」に関連する地理情報整理のための文献調査に多くの時間を投入した. 一方で,「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」に関しては,国内におけるムスリム・アイデンティティの動向について調査を進めた.8月に実施した泉大津市のロシア兵墓地調査では,肉眼では読み取りが不可能に近かったアラビア語刻文について3Dスキャンを実施し,今後の調査の進展に希望が持つことができた.神戸モスクやハラール・フード店,勤務先の大学で行ったハラール・フード・イベントにおける聞き取り調査では,少数のインフォーマントから貴重な知識が得られたものの,十分な人数を獲得できなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
「陸海ユーラシア交通」に関連する地理情報データの整理作業とそれにもとづくマッピング・視覚化をさらに進めることとしたい.従来ヨーロッパ東洋学や中国の対外関係史および日本の東洋史学の研究者らによって提示されてきた有力な地名比定結果をデータに整理し,地図にマッピングする. 2023年度に限定的に行った海外現地調査(シンガポール)では,17世紀のオランダで製作された地図の展示があり,地名比定の検証作業に参照可能であることを再認識した.すでに入手したヘンリクス・ホンディウス「アジア図」のほか,アブラハム・オルテリウス「東インド図」その他の西洋古地図を参照し,これまで未確定となっている地名の比定に有力な手がかりを得たい. 『元史』本紀や列伝に残される断片的な対外関係記事の整理を行う.先行研究や研究代表者自身によって,元と諸外国の使者の往来数の推移を示す年表が作成されているが,互いに齟齬も多い.今後の課題として,一つ一つの事例の検討を丹念に行う必要がある.そこで本研究ではそうした検討作業のため,上述の表の典拠となる記事を要約した一覧を作成し,それぞれの記事について関連情報を付け加えていけるようなデータベースの構築を行いたい.また『元史』馬八児伝のように重要な対外関係記事を含む史料の訳注を作成する.それらのデータを有機的にリンクさせることで,モンゴル時代の「陸・海ユーラシア交通」の歴史研究の今後の進展に資することができる. 「ムスリム交易民のディアスポラ・アイデンティティ形成」に関しては,泉大津市ロシア兵墓地を再訪し,調査を実施したい.また墓石に刻まれた聖典章句をムスリム・アイデンティティの指標とする研究手法に加え,出身地の食文化を移住先でどのように維持,または,変容させていくのか,という文化的な観点からのアイデンティティの諸相の分析も併せて進めてみたいと考えている.
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