フィールドの共創的な再現:差異と類似をめぐる教育実践から構築する公共的な人類学
Project/Area Number |
21K01057
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 04030:Cultural anthropology and folklore-related
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
飯塚 宜子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 研究員 (60792752)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
園田 浩司 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20795108)
大石 高典 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30528724)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
|
Keywords | 演劇手法 / パフォーマンス / 相互行為 / カナダ先住民 / アフリカ狩猟採集民 / 教育 / 環境観 / 身体性 / 物語 / トランスカルチャリズム |
Outline of Research at the Start |
今日の社会では他者の排斥や環境の破壊など、社会的な「分断」が深刻化している。この分断に対抗する力として、人類学の方法や知見が貢献できるのではないか。本研究は、アフリカ、カナダ、チベット文化圏をフィールドとする人類学者が俳優らと共に、演劇手法を用いて教室をフィールドに見立てる連続的な教育プログラムを実践する。市民や児童が多元的な差異を知ることを通して自らの内的な諸要素に気づき、他者と自らの類似や普遍への認識を深めることが可能かを相互行為分析等によってはかり、パフォーマンスによる共創的な表象の有意性を検証し、その方法論を構築するなかで、人類学の公共的な在り方を提起する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
多元的なフィールドを学習者らと共創するワークショップについて、2023年7月から2024年2月にかけて7回の実践を行うなかで、打ち合わせやリハーサルを重ね、俳優やダンサーや研究協力者らと共にプログラムの構成や具体的ワークについて逐次再検討を行った。例えば、カナダ先住民クリンギットのプログラムでは動物と人間の関係を核とするが、「狩った動物の魂を丁寧に扱う」行為を共創するためにヘラジカに扮した俳優を撃つことからワークを始め、「動物になって皆で踊る」ためのプロセスを丁寧に考えるなど検討を行った。バカ・ピグミーの狩猟採集社会をめぐるワークショップでは、人間がなんでも分かるわけではない広大な熱帯雨林の捉え切れなさに近づくために、「森の音」にもとづくプログラムを実験的に行い、過去のテーマとの比較などを実施した。バリ島の仮面舞踏や儀礼を扱うプログラムや、アンデスの神殿をめぐるプログラムについても再検討し実践を行った。これらの実践について、リハーサル時のメイキングや、ワークショップ本番時の動画記録やアンケート等のデータを収集した。また、教科教育に演劇手法を取り入れる小学校の現場を視察することで、俳優らが演出によって学習者のリアリティを深める手法も学び、本実践への導入も試みた。 またこれまで本研究のプログラム構築や実践に関わった研究者が、研究代表者や分担者と共に集まり研究論集に向けた研究会を開催し、異なる地域を横断するプログラムについて意見交換を行った。さまざまな社会的な分断が課題となる今日、単なる「情報伝達」ではない人類学的な他者理解が求められることを共有し、「人類学者がフィールドで出会う事象は固定されたものではなく、環境や人との関係性のなかで立ち上がり意味づけられていく」プロセスが再現される身体性を伴う方法論について議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールドにおける生活の様子や儀礼などを模倣し、取り上げたテーマについて即興的に共創してみるという環境演劇的・共創的表象なワークショップ実践について、本科研の最終成果となる研究論集に向けて原稿の執筆をすすめている。「参加」という用語をキーワードに学校教育と社会教育の相違点や、本実践の特徴などについて、実践と理論構築の両面で精緻化を進める一方で、プログラムのプロセスの相互行為の記述やその行為からの論点が未整理のプログラムもある。 実践面からは異なる状況下でさまざまなワークを新しく試行するなど、年々経験や知見が蓄積されている。南米アンデスの古代神殿をめぐる人々について知るワークショップは、私立中学の授業枠でも複数回実施する機会を得て、大人数が体験的・演劇的に学ぶ手法についての知見を深めた。またバリ島の仮面舞踏や儀礼についてのワークショップは、東京外国語大学フィールドサイエンスコモンズ(TUFiSCo)との共催での開催も継続している。教育的実践に関心が高い俳優やダンサーらの研究協力者も年々増加している。実践に各方面の多くの専門家の協力を得ていることからも、研究期間を1年延長し、実践データの分析と理論の再レビューに時間をかけることとした。 また、研究分担者の大石は2024年3月にカメルーンに渡航し、2018年度に研究代表者らと現地で行った環境教育についてのワークショップとその後のバカ社会におけるこどもの教育の状況について、現地の先住民NGOと意見交換を行った。園田は本実践研究の内容をもとに、国際交流ファシリテーター事業の招聘講師として、異文化理解と環境教育のワークショップのファシリテーションを実施するなど、関連実践も広がっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、人類学における演劇的表象やパフォーマンスに関する議論を再度整理し、これまで数年間にわたり実施したプログラムのアンケート結果や動画記録などを研究分担者や研究協力者間と共有しながら議論を深め、研究論集を完成させていく。専門用語を使用しない環境演劇的な場を共創し、地域の大枠や概要を掴むための説明やワークとして何を取捨選択し、リハーサルや本番のなかで俳優や学習者らとどのような相互行為が生まれたかといったプロセスの記述を行っていく。そして相互行為分析などにより、学習者は何者として異文化を理解するのか、また生起した発話や、教室に設置された民族誌資料が、学習者による他者理解の過程をどう組織したのかなどを分析する。それらの分析から、身体性を伴うフィールドの共創という方法論は、専門家ではない幅広い学習者らが多元的な差異を知ることにどのように有意であるか、そしてそのような方法論はどのような状況下で可能になるのかを検証する。理論の精緻化とともに、社会的な実践をどのように継続していくのか、社会的な発信のあり方も考察していきたい。
|
Report
(3 results)
Research Products
(20 results)