Project/Area Number |
21K01097
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05010:Legal theory and history-related
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
関 良徳 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (90313452)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,120,000 (Direct Cost: ¥2,400,000、Indirect Cost: ¥720,000)
Fiscal Year 2025: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | ネオリベラリズム / 専門知 / 被害者 / 犠牲者 / 不正義 / セックスワーカー / ラディカル・フェミニズム / コミュニズムの理念 / 統治性 / 人権 / コスタス・ドゥジナス / 抵抗 / 公理的平等 / 革命 / コミュニズム / 抵抗への権利 / ドゥジナス / ネオリベラリズム統治 / 公理的平等論 |
Outline of Research at the Start |
2000年代以降,イギリス批判法学はネオリベラリズム統治による排外主義と貧困・経済格差の再生産を強力に批判してきた。他方,リベラリズムは既成秩序を維持するため,フランス人権宣言以来の抵抗権を無力化するとともに,経済的自由(財産権)を重視することで市民間の平等を蔑ろにしてきた。そこで本研究では,ネオリベラリズム統治とその背景にあるリベラリズムの双方を批判し「コミュニズムの理念」へと向かうイギリス批判法学の現代的展開とその法理論的意義を追究する。本研究が目指すのは,コミュニズムの「国家」論には回収されえない,抑圧された人々の連帯と抵抗を基盤とする新たな人権論としての法理論の構築である。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は次の二点である。①コスタス・ドゥジナスを中心とする批判法学の現代的展開について解き明かし,ネオリベラリズムの統治政策に対する批判や抵抗実践の理論的基盤を法哲学の見地から構築する。②公理的平等の概念や抵抗への権利を核とする「コミュニズムの理念」に依拠したドゥジナスの人権論を手掛かりに,抵抗権や革命権の理論的意義とその可能性について明らかにする。これらの研究目的を実現するために、令和5年度は次の二つの研究を行った。 第一に、巨大資本、専門家集団(専門知)、政府機関が相互に結び付くことで現実化されるネオリベラリズム統治(その典型は原子力政策に見られる)への批判や抵抗実践の在り方を現代民主主義論を軸に追究した。ここでは、市民と専門家集団との乖離をコミュニケーション的理性をつうじた相互理解・相互変容によって架橋する熟議民主主義の難点を指摘し、批判的専門家と被害者/犠牲者との連携による「不正義」の告発をつうじた闘技的モメントの重要性を指摘した。また、これを基礎に、社会に水平的な共感と連帯の感覚をもたらしたマルティチュードによる社会運動の意義を明らかにした。 第二に、ネオリベラリズム統治の浸透によって社会・経済的に虐げられている女性、特にセックスワーカーに焦点を当てて、支配-従属的な権力関係への抵抗実践と法・政治理論との関係性について究明した。ここでは、ラディカル・フェミニズムとコミュニズムの法理論から、セックスワーカーの性的人権や生存権を保障すると同時に、女性を支配=搾取する買春者(そしてその共犯者である売春組織)の取締り及びセックスワーク廃止論へと向かう法制度について検討した。また他方で、セックスワーカーとしての権利を求めるセックスワーク論についても検討を行い、「セックスワーカーになる自由」と「ならない自由」という二律背反状況を法哲学・法理論の視角から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度の研究主題「コミュニズムの理念の法理論的分析」では、ネオリベラリズム統治批判の枠を超えてその影響力を示し得る「コミュニズムの理念」の下で、公理的平等論と抵抗/革命への権利を基盤とする法理論、あるいは人権論を提示し、国内外の学会での報告を準備する計画であった。 この研究計画が順調に進められていることを示すものとして、日本法哲学会・学術大会(令和5年11月)での報告「民主政における専門家」を挙げることができる(なお、同報告は論文「民主政と専門知 ― 民主主義社会における専門家の位置」『法哲学年報2023』として令和6年11月刊行予定)。この報告では、コミュニズムの理念の下で展開されるべき民主政と専門家集団(専門知)との関係性について分析を行った。この分析では、原子力発電所再稼働、ワクチン接種禍、性犯罪関係の刑法改正を例に、支配-従属という権力関係下にある被害者/犠牲者を民主政プロセスへと結び付けるための契機として、批判的専門家の役割とその意義について論じた。また、この民主政プロセスにおける闘技性やマルティチュードによる政治運動の実践的な重要性についても確認した。 さらに、論文「セックスワーカーになる自由はあるか?」瀧川裕英編『もっと問いかける法哲学』(法律文化社、令和6年5月刊行・所収)では、自己決定主体の責任論を強調するネオリベラリズム統治の下で拡大した経済的格差のしわ寄せが女性たちへと向かう現状を分析したうえで、貧困に陥ったシングルマザーが今日、家事労働とその延長線上にあるケア提供型の低賃金労働へと追いやられ、さらにジェンダー的従属構造の下で性的搾取の危険にさらされ続けている点を問題化した。この論点について、本稿では、ラディカル・フェミニズムとコミュニズムの法理論を基盤とする「性的人権」の観点から、セックスワーク論及びセックスワーク廃止論について検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度以降は研究計画にしたがって「東アジアにおけるコミュニズムの理念と法」をテーマに、中国・韓国の研究者による「コミュニズムの理念」に関する諸論稿を分析し、東アジア地域におけるネオリベラリズム統治批判と「コミュニズムの理念」について研究を進める。特に、令和3年度に得られた研究成果(コミュニスト思想家たちの「人権」に関する各所説の分析)及び令和4年度に得られた研究成果(公理的平等論と抵抗/革命への権利を基盤としたコミュニズムの理念の具体的・実践的な展開)とを合わせて、「コミュニズムの理念」と「人権」との関係性及び、リベラリズムとは異なる視点からの人権論を追究する。さらに令和5年度の研究成果から「コミュニズムの理念」と現代民主主義、及びその法理論的意義について解明するため、研究の射程を拡大する。 また、本研究開始時から新型コロナウィルス感染症の影響により滞っていた海外での文献調査をさらに進めることで、コスタス・ドゥジナスの近著『States of Exception』等の影響を受けて展開された、新たな法理論研究の成果にも注目して、研究の推進を図る計画である。 令和7年度の研究主題「コミュニズムの理念による法理論の構築」では、これまでの研究を総括するとともに、リベラリズムの人権論とは次元を異にする「抵抗」や「革命」の意義を重視した人権論を完成させる計画である。
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