Project/Area Number |
21K01110
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05010:Legal theory and history-related
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐藤 史人 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50350418)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | ロシア / 憲法裁判 / 憲法アイデンティティ |
Outline of Research at the Start |
社会主義体制の崩壊とともに、ロシアは、法治国家の確立に向けた歩みを開始した。しかし、2000年代に入ると、憲法裁判所の判断は保守化し、ヨーロッパ人権裁判所との対立が深まる中で、「西」に対する「ロシア憲法のアイデンティティ」の擁護が主張されるようになった。他方で、こうした動きを批判する側も、対抗戦略として、リベラルな価値を憲法のアイデンティティとして掲げている。本研究は、この「憲法アイデンティティ」概念を切り口として、現在のロシアの憲法状況を分析することにより、ロシアの立憲主義をめぐる対立構造と課題を明らかにし、権威主義体制下の「立憲主義」というテーマを検討するための理論枠組みの構築を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、憲法アイデンティティ概念がロシアにおいて議論される契機となったヨーロッパ人権裁判所とロシアの関係について、ロシアのヨーロッパ評議会加盟から2022年2月のウクライナ戦争開始にともなうヨーロッパ評議会の除名、さらにその結果として生じた人権裁判所との関係の断絶に至る全過程を、総体として検討した。これは、研究課題として示した四つの項目のうちの「ヨーロッパ人権裁判所に対するロシア憲法裁判所の応答」に対応する。以上の検討を通じて、ロシアの人権条約脱退のあり方、すなわちヨーロッパ評議会の「除名」に伴う人権条約の脱退が、ロシアの政治部門にとってはマイナスではなく、ロシア市民にのみ負担を強いるものであったことを明らかにした。また、人権裁判所の判決がロシア法にどの程度影響を与え得たのかを検討し、その際に、2020年憲法改正がこの領域に与えた影響を、ロシアの国内裁判所による国際法の執行状況という視点から解明し、新たな知見を得ることができた。この作業から得られた知見は、近く『人権判例報第8号』(信山社)に公表予定である。 第二に、ロシアの憲法アイデンティティとは何かを考える素材として、ロシア憲法体制の通史的特徴を「非常事態の常態化」という観点から捉えるというモチーフのもと、体制転換後の法制のみならず、帝政期、社会主義期をも射程に入れてロシアの緊急事態法制について検討し、帝政期の1881年法以来のロシア憲法体制の病理とも言えるものを析出した。その成果の一部は、法律時報誌2023年12月号において公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究には、四つの検討課題がある。(1)憲法アイデンティティをめぐるロシアでの学術的議論、(2)ヨーロッパ人権裁判所に対するロシア憲法裁判所の応答、(3)憲法裁判所における違憲審査、とりわけ目的審査における伝統的価値の扱い、 (4)ポスト共産主義という共通性を有するハンガリーにおける憲法アイデンティティをめぐる論争の検討である。このうち、(1)(4)については二年目までにある程度の成果を上げ、3年目である本年度は(2)について成果を上げることができた。また、(3)についても基本的な研究は終わっている。しかし、(1)から(4)をまとめて、ロシアの憲法アイデンティティをめぐる問題を全体としてまとめる作業がなお不十分であり、くわえて、研究の途上で浮上した、ロシアの憲法アイデンティティを「非常事態の常態化」という観点から分析するという課題についても、なお研究をまとめるには至らず、加えてロシアにおいてのみ入手可能な資料がある一方で、ウクライナ・ロシア戦争の影響から現地に渡航できない状況が続いている。こうしたことから、本研究課題の遂行は、当初の見込みよりもやや遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、これまでの研究成果を踏まえて、研究のとりまとめ的な論文を執筆する。あわせてロシアの緊急事態法制に関する検討も行う。また、ロシアへの渡航の可能性を引き続き探るとともに、多様な方法で研究を補強する資料の収集に努める。
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