リスク社会における国家賠償制度の再定位―民事不法行為法との共進化
Project/Area Number |
21K01140
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05020:Public law-related
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
米田 雅宏 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (00377376)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 国家賠償法 / 安全配慮義務 / 危険管理責任 / リスク社会 / 職務義務違反説 / 動的システム論 / 民事不法行為法 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、原発訴訟や建設アスベスト訴訟など、近時注目されている行政庁の危険管理責任の問題を「信頼を基礎とした安全配慮義務」の観点から捉え直すことを通じて、リスク社会に相応しい国家賠償制度を構想することを目的とする。具体的には、まず(1)規制権限の不行使による加害構造と安全配慮義務違反による加害構造との共通性を確認し、次に(2)民事不法行為学説で論じられてきた、危険責任に基づく不作為不法行為の問題処理の方法との接続を図り、(3)事案に応じて形成される「信頼を基礎にした安全配慮義務」が、公務員の職務義務を通じて《リスク社会に相応しい国の責任規範としての役割を果たす》という仮説の妥当性を検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
建築物の建築主が、建築確認の申請書に添付された構造計算書が一級建築士によって偽装されていたことを看過して行われた建築確認処分により、「改修工事費用等の財産的損害」を受けたとして主張して地方公共団体に損害賠償請求した、いわゆる耐震偽装事件国家賠償訴訟(最三小平成25年3月26日集民243号101頁)において、最高裁は結論において原審と同様、原告の請求を棄却したが、その理由において、国家賠償法1条1項が定める違法性の理解をトータルに省察する契機となる重要な論点が触れられている。これは、具体的には法廷意見と補足意見の対立という形で示されたものであるが、研究2年目の研究では、この判決を素材に、建築確認という典型的な行政活動(行政処分)にかかる国賠違法の理解について集中的に考察した。本判決において注目したのは、根拠法上の「許可」の法的効果のみならず、「許可を付与すること」それ自体がもたらす事実上の効果ないし不利益的影響が、賠償責任規範成立の中心的要素とされている点である。というのも、「処分」とは区別される「処分をすること」に目を向けた場合、法律が「処分」の効果として直接的には想定していない作用、例えば許可名宛人を危険な状態に置くといった事実上の作用について照らし出すことになるからである。このことは、定型的行政処分が問題となるような事案でも、「処分をすること」を観念することによって、法規範が定める「処分」の直接的効果では捉えきれない損害の発生や危険の創出を、国賠法上の職務義務(危険回避義務)違反という形で問題とし得る可能性を示唆するものである。この考察結果は、以後、最高裁が考える「国家賠償法の解釈の構造」を解明する上で、重要なヒントを与えるものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の2年目は、ドイツの不法行為法理論である「社会生活上の義務」について調査・検討を行うことを通じて、国賠法との接続可能性並びにその限界について明らかにすることを計画していた。この点については、既に「危険管理責任の再定位(上)(下)―義務違反構成の試み」法律時報 93巻12号(2021)130頁以下、94巻1号(2022)121頁以下でその概要を盛り込むことができたが、若干の加筆修正を施し、太田匡彦=山本隆司編『行政法の基礎理論―複眼的考察』(日本評論社、2022)226頁以下にも収録することができた。また、上記論文の続編として、「建築確認処分と『国家賠償法の解釈の構造』―最三小判平成25年3月26日集民243号101頁を素材として」と題する論考を公表し、大貫裕之=神橋一彦=松戸浩=米田雅宏編『行政法理論の基層と先端―稲葉馨先生・亘理格先生古稀記念』(信山社、2022)419頁に寄稿することができた。現在は、上記論文で明らかになった結果を総括すべく、最高裁が考える「国家賠償法の解釈の構造」の見取り図作成に取り組んでいる。以上が「おおむね順調に進展している」と判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最後となる3年目は、これまで公表してきた論文の結果を総括し、最高裁判所が考える「国家賠償法の解釈の構造」の見取り図の作成に取り組む予定である。具体的には、行政処分に代表される典型的な行政処分の国賠法違法の理解にかかる、公権力発動要件欠如説と職務義務違反説の布置について明らかにしたい。国賠法が定める「公権力の行使」概念を再吟味し、「行政処分」と「行政処分をすること」の区別がもたらす国賠法の解釈上の帰結を明らかにするほか、「職務上の義務」の理解が、論争の続く国賠違法の理解、とりわけ学説上支配的な公権力発動要件欠如説といかなる布置関係に立つか、裁判実務の観点から確認し、総括する予定である。
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Report
(2 results)
Research Products
(17 results)