「生存権」をめぐる法的言説実践の歴史社会学的研究―セツルメントの法律相談を中心に
Project/Area Number |
21K01875
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
冨江 直子 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (20451784)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2022: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2021: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
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Keywords | 生存権 / 歴史社会学 / 社会事業調査 / 方面委員 / セツルメント / セツルメントの法律相談 |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は、日本近代の歴史のなかで「生存権」の概念と思想を再考することである。歴史をひもとけば、今日通説的に理解されている「生存権」とは異なる多様な「生存権」がせめぎあい、創発する様を見ることができる。それは法的言語を用いる専門家の閉じた言説空間においてのみでなく、日常言語と法的言語とが交錯する開かれた言説空間において遂行される意味形成の社会過程のなかに観察される。本研究は、この社会過程を分析するための事例として東京帝国大学セツルメントの法律相談を中心に取り上げ、他の事例と比較しながら分析する。近代化の過程で失われてきた複数形の「生存権」を未来につないでいくことが、本研究の目標である。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、知識階級と民衆との出会いの場に着目し、異なる複数の「生存権」の生成とせめぎあいと創発を見出すことを課題としている。本年度は、貧困者と直接の関係をもちながら「生存権」の保障をめぐる問題に向き合った実践として、昭和初期における「不定居」的貧困に対する社会事業調査と大阪府方面委員の日常業務における生活困窮者調査を比較分析し、支援者・調査者と被支援者・被調査者とが、ある種の共同作業を通じて、貧困者を取り巻く社会関係にどのような影響をもたらそうとしたのかを考察した。これらの「調査」においては、調査者と被調査者とが支援―被支援の関係にあり、「調査」は被調査者に対する支援や救済の活動と結びついていた。そして、支援者である調査者は、調査の対象となった人びとの尊厳や生活や「権利」を守るために、彼らの声を一般社会に向けて代弁した。これは同時に、被調査者および調査の外に置かれた他者の多様な声を覆い隠すことでもあった。二つの事例の考察を通じて浮かび上がってきたのは、調査者・支援者が貧困者の尊厳や生活、そして救済へのある種の「権利」を守るために、貧困者の声を代弁し、同時に声を奪っていく様であった。この過程においては、一般社会から排除されている人びとが労働者・市民として一般社会への包摂を志向する人びととして提示されるだけでなく、排除された人びとの固有の生活世界を否定することへのためらいが示唆されていることにも注目しておきたい。 以上の考察を踏まえて、次に取り上げる東京帝国大学セツルメントの活動に関する問いと分析枠組みを明確にし、次年度における資料収集と分析の準備作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年度まで感染症対策により他大学の図書館の利用の制限があったため、自身の所属大学において利用できる資料を用いた研究を先に実施するように研究計画を変更した。そのため、当初の計画では一昨年度から実施する予定であった研究課題の進捗が遅れており、それにともない全体を見渡した考察も遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
東京帝国大学セツルメント(東大セツルメント)の活動についての資料収集、分析、論文の執筆を進める。 東大セツルメント法律相談部の学生たちの活動は、震災後の東京で「生存権」と法的権利の相克という難問題に向き合いながら、知識の「社会化」によって専門知としての法律と日常生活世界とを架橋することをめざしたものである。法律相談部は、知識階級と民衆との出会い、法的言語と日常言語との出会いを通じて、知識階級と専門知が自己革新を遂げようとした場であり、ここに着目することによって、多様な語り手の相互作用のなかで「生存権」がせめぎあい、創発する様を動態的に描き出すことができるのではないかと思われる。セツルメントの法律相談を通じて、学生たちは、法律知識による解決ができない現実の問題に向き合い、当事者同士での解決や社会政策・社会運動による根本的解決の必要性を認識し、法律知識を相対化していく。そして、当事者の語りを聞くという受け身の役割の重要性への気づきを得るに至る。 今後は、東大セツルメントの法律相談の分析と考察を中心に進め、さらにこれまでに分析した事例と比較しながら、多様な語り手によることばを連続的に捉えていく。
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Report
(2 results)
Research Products
(4 results)