脱逸脱をめぐる当事者活動の社会学と新しい逸脱論の研究
Project/Area Number |
21K01939
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 哲彦 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20295116)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,820,000 (Direct Cost: ¥1,400,000、Indirect Cost: ¥420,000)
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Keywords | セックスワーカー / セックスワーク / ハーム・リダクション / 薬物政策 / 薬物使用 / 当事者活動 / 逸脱 / 当事者 / 脱逸脱 / ポスト・エイズ |
Outline of Research at the Start |
エイズの流行は世界中で、男性同性愛者や薬物使用者、セックスワーカーなど周縁化された人びとの命をどう救うかという問いを喚起し、各国は公衆衛生活動を通じてそれに対処した。その際、彼ら自身がすでに行っていた(後にハーム・リダクションと呼ばれる)当事者活動の有効性が注目され、彼らの社会的包摂が試みられるようになった。このようにポスト・エイズ時代における脱逸脱をめぐる当事者活動は健康政策や人権政策としての意義が認められ、逸脱当事者自身による再帰的な活動の組織化が進められてきた。それを可能にした社会の変容と、逆に当事者活動によって達成されつつある社会の変容を分析することで、逸脱論および社会学を再考する。
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Outline of Annual Research Achievements |
2022年度はいわゆるコロナ禍も前年度よりは下火となり、調査環境が比較的回復してきたため、本研究において予定していた調査研究を行うことが可能となった。ただしその過程においては、申請時には想定できなかった事態も発生したため、むしろその事態を積極的に活用することを通して、従来では不可能な調査を行うことが出来た。 その一つは国政選挙の選挙活動である。まずセックスワーカーの運動を記述する一つの方法として、国政選挙に立候補した元セックスワーカーの選挙活動を観察・記録し、そこで用いられる言説やそれに対する応答などを記述することで、脱逸脱をめぐる当事者活動の一端を明らかにする調査研究を推し進めることができた。とくに全国各地でセックスワーカーと、さらには彼ら/彼女らのスタッフと話し合えたことは非常に貴重な体験であった。 もう一つは再編されたセックスワーカーの運動である。9月にベルギーで開催されたESWA CONGRESS 2022という欧州セックスワーカーの第1回大会に参加し、観察と交流を通して、セックスワーカー運動の現在の焦点とその経緯について考察することが可能となった。ESWA大会後にはESWAの活動を広く示すためにEU議会でEU議員と議論する場も設定され、そもそもセックスワーク問題がどのような問題かという文脈や位置づけ、とくに労働や健康との関係で意味づけていく交渉過程が観察可能であった。ただし、脱逸脱をめぐる当事者活動というより広い観点からすると、ESWAではハーム・リダクションについて議論する機会はあるものの、ハーム・リダクション活動のネットワークとの結びつきはそれほど強くなく、いくつかのトピックを通して、個別的な政策的・研究的側面での結びつきが観察された。 またこれらと並行して、日本の薬物使用状況と薬物政策の戦後史を、国際的な視野に収めるための議論の成果を刊行することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍が下火となることで、当初予定されていた調査をようやく予定通りに敢行することができた。さらにそれに加えて、従来想定していなかった全国各地での選挙活動を通じて、セックスワーカーの活動の結びつきが可視化され、またそこで用いられる言説の接続が観察可能となった。これは当初想定されていなかった調査であるが、むしろそれを通して、当初の計画以上に調査資料を集めることが出来た。 またコロナ禍によって中断していた各地のセックスワーカーやPUDもしくはPWUD(People Who Use Drugs)の連帯活動が次第に復活もしくは再組織化される経緯を、新たな会合の組織化に参加することで、それぞれの当事者とほぼ同じ立場で観察することが出来た。2022年度はその意味でさまざまな脱逸脱をめぐる当事者活動が再開した時期であり、それらに間に合ったことが研究の進捗状況に大きく影響したと言えるだろう。 またとくに、2022年度に企画され、2023年度に開催される(報告書執筆時点ではすでに開催済み)Harm Reduction International Conference 2023では各地のPUDやセックスワーカーが集合してネットワークの再構築を行い、また同時にハーム・リダクションの新しい局面である人権運動や脱植民地化運動を議論することとなり、それらを通して最終年度である2023年度における全体的な記述と考察に寄与するデータの収集が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は上に述べたとおり、まずはハーム・リダクションをめぐる国際的活動についてデータを収集することで、本研究の当初の目的にかかげた、PUDの集団やセックスワーカーの集団の国際的ネットワークについて記述を行う。とくに、コロナ禍の期間に経済的基盤が脆弱でハイリスクなそれらの活動はさまざまな困難に見舞われており、そのような逆境がエイズ流行時代にも見られたように、それらの集団やネットワークの特徴と重要性をより鮮明に映し出していることに注目した資料収集と考察をする必要がある。 さらにそのような現象レベルの記述を積み上げることで、2021年度と2022年度に収集したデータをもとに、ポストエイズ時代における脱逸脱をめぐる当事者活動の考察から「逸脱の社会学」を刷新する思考や概念について検討する。加えて、「逸脱の社会学」ということに限らず、脱逸脱をめぐる当事者活動がハーム・リダクションにおいても近年焦点が当たっている人権活動や脱植民地化活動を通して、社会秩序や統治という局面にもつ意義についても考察する。
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Report
(2 results)
Research Products
(4 results)
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[Book] アディクションの地平線2022
Author(s)
松本俊彦、佐藤哲彦(第九章の執筆担当)
Total Pages
220
Publisher
金剛出版
ISBN
4772418784
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