音楽教師の美的価値観形成のための対話型音楽鑑賞プログラムの実証研究
Project/Area Number |
21K02556
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 09040:Education on school subjects and primary/secondary education-related
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
古山 典子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (10454852)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀧川 淳 国立音楽大学, 音楽学部, 准教授 (70531036)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2021: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 鑑賞 / 教師教育 / 音楽経験プログラム / 対話 / 専門性 |
Outline of Research at the Start |
本研究では,まず音楽経験と校種を視点に教師の「音楽の聴き方の違い」を明らかにした上で,指導を行う教師に美的価値観の形成・変容を促すことを目的とした対話型音楽鑑賞プログラムを提示する。本課題で提示する音楽経験プログラムの特徴は,教師を対象とするものであること,そして音楽家を含めた様々な音楽経験,価値観をもった者による対話によって,より深い音楽理解へ導く点にある。この「対話」によってもたらされる教師の美的価値観の変容を明らかにすることで,本音楽鑑賞プログラムの有効性の実証を試みるものであり,今後の音楽科教育における鑑賞指導のあり方に示唆を与えるものといえる。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年8月に小学校教師を対象とした対話型音楽鑑賞経験プログラムを実施した。参加者は,音楽家としてピアニスト1名と小学校教師16名であった。プログラムは3部構成とし,第1部を同曲異演Ⅰ(同じ曲の異なる演奏家による演奏),第2部「何を思い浮かべる?」(「雨」をテーマにした4曲),第3部同曲異演Ⅱ(同じ曲の同じ演奏家による年代の異なる演奏)で実施した。本プログラムは対話を主体とするものの,その対話は鑑賞後にしかなし得ないことから,音楽を鑑賞している過程で感じたことをリアルタイムに共有する手段として,ライブ形式でアンケートや投票を行うことのできるアプリケーションMentimeterを併せて使用することとした。 通常,音楽は多様に展開されるため,鑑賞する過程でさまざまな気付きや感じ方が生じるはずであるが,楽曲の途中で発言することは他者の鑑賞を妨げ,なおかつ発話している者も発話時に背後の音響を聴くことが困難となる。これまでの対話型音楽鑑賞経験プログラムの実証研究により,音楽の感じ方の「正解」に対する参加者の認識が,「聴き方」の柔軟さに関連していること,またそれが音楽を聴く行為の可能性を開くことが示唆されていることを受け,本プログラムでは,専門性の有無への意識が鑑賞への妨げになることを避けるために,感じたこと,気づいたことを感じた時に表明できる手立てとしてMentimeterを位置づけた。この使用によって,発話という音の阻害が音楽鑑賞に関与しない状態で,なおかつ移りゆく楽曲から受ける印象や思いをリアルタイムに文字化し,画面に投影することによって他者と共有できること,また,それを契機として鑑賞後の対話が成立しやすくなることがその利点として挙げられる。 現在分析を行っており,成果については,2024年度中に国際学会にて発表を行うとともに,論文投稿を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
対話型音楽経験鑑賞プログラムの実証研究については,プログラムの開催回数が少なく,計画通りに進んでいるとはいえない。開催回数が少ないため,多様な音楽による音楽鑑賞プログラムの検証は遅れているものの,これまでに現代曲と古典曲,ヴァイオリンによる文化的背景の異なる楽曲,ピアノ曲を取り上げて着実に回を重ねてきている。また,プログラムの内容と実施方法については,より鑑賞者の発言を引きだし,鑑賞者同士の対話を深めるための改善を行ってきた。 なお,本研究を通して,鑑賞者たちは聴き方の「正解がない」ことへの気付きが,より自由な発言を引きだすことを見出している。これに関連して,岡田猛・縣拓充(2020)は「アート・コミュニケーションで重要なことは,自由な解釈を許容し,新しい創造を喚起するような『触発(inspiration)』という概念」である,と指摘している。音楽鑑賞において,解釈が縛られることなく,自分の解釈を許容される場として,この対話型音楽経験鑑賞プログラムは機能するものである。とくに,特定の音楽ジャンルに対して,「聴く耳」を閉じている可能性があることから,楽曲の取り上げ方を工夫する必要性が認められる。また,鑑賞者たちの「聴く耳」が,作曲者の意図から外れるものではないこと,また作曲者の意図そのものに解釈の自由度が認められることを認識することによって,鑑賞者の「聴く耳」を拓くことが可能となることが推察される。 また,A.ハウゼン(1983)は,美術鑑賞における美的発達段階をステージⅠからⅤに分類しており,この美的発達段階は年齢によって自然に発達するものではなく,美術鑑賞経験が重要であることを提示している。音楽鑑賞においても,この特徴は同様に認められ,年齢ではなく音楽鑑賞経験によって「音楽を聴く力」は変容する。 以上を踏まえ,引き続き対話型による音楽経験鑑賞プログラムの実証と考察を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における対話型音楽鑑賞経験プログラムについては,「対話」を重視するため,毎回15名程度を上限として参加者を募っているが,今後は新規プログラムとともに,これまでのプログラム内容で,参加したことのない教師たちをも対象に複数回実施し,検証のためのデータの蓄積を図る予定である。 また,このプログラムの特徴として,時間と空間を共有しながら音楽経験の異なる他者と共に鑑賞することが挙げられるが,対話は鑑賞後にしか行うことができない。そのため,鑑賞の過程においてコメントを言語化し,視覚的に共有する手段を取り入れたところ,楽曲の中途に寄せられた言葉が,鑑賞後の対話においてより楽曲について語ることを深め,参加者の聴き方に変化が表れている様子が見られた。しかしながら,この方策は音楽鑑賞において万能の策ではないことも認識しておかなければならない。なぜなら,鑑賞の過程で他者が文字化したコメントが「その時」の自身の聴き方に意を反して影響し,つながりのないものにする可能性が否定できず,またその文字化された視覚情報を読み取るという行為が「聴く」行為を妨げること,またこれは一部分に対するコメントに過ぎず,1曲すべてを聴いて味わうことを阻害することが危惧されるためである。したがって,今後のプログラムの実施においては,過度に鑑賞過程でのコメントに依拠して対話を展開することについては留意し,取組み方を工夫していく。 くわえて,本研究での鑑賞には「生の音楽」ではなく,録音された一方向的に提示される音響を使用している点についても課題を認識している。この点については,W.ベンヤミンのアウラを視点として考察を行っており,引き続き理論的背景について整理をしながら考察を行う。
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Report
(3 results)
Research Products
(15 results)