なぜあなたに配慮義務があるのかー合理的配慮をする側の障害理解教育カリキュラム開発
Project/Area Number |
21K02736
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 09060:Special needs education-related
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Research Institution | Niihama National College of Technology |
Principal Investigator |
濱井 潤也 新居浜工業高等専門学校, 一般教養科, 准教授 (10612369)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2024: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
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Keywords | 障害理解教育 / 合理的配慮 / 障害者差別解消法 / チャールズ・テイラー / インターカルチュラリズム / 共同体主義 |
Outline of Research at the Start |
「障害者差別解消法」の施行により、障害学生に対する合理的配慮の実施が喫緊の課題とされている。しかし「なぜ健常者に配慮義務があるのか」という倫理的な問いが後回しにされ、一部の健常学生が抱く不公平感が解消されていない。 そこでこの倫理的な問いを主題とする障害理解教育を通じて、健常学生の我慢にではなく納得に基づく共生の意識を形成する新たなカリキュラムを、高等学校の新科目「公共」などにも適合可能な形で開発する。 それにより障害学生への排他的な偏見を抑制し、いじめも防止しうる点に加えて、性別、人種、宗教等におけるあらゆる弱者への差別や平等を考える基盤を提供し、共生社会の構築に貢献しうると考えられる。
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Outline of Annual Research Achievements |
本科研の研究テーマにおける令和5年度の実績は主に2点、第一に昨年12月13日に春風社より、拙著『チャールズ・テイラー 思想の淵源』が出版されたことが挙げられる。本研究は主に高専生を対象とした「障害理解教育」ではあるが、その実障害そのものの理解ではなく、障害者に対する「合理的配慮」に対する倫理的正当性についての理解を主軸としている。そのため科研申請書においても記載の通り、教育カリキュラムの開発には、アンケート調査等の学生たちと直接向き合う部分と、カリキュラムの骨子となる平等・不平等をめぐる倫理的、政治哲学的議論についての研究が両輪となっている。拙著『チャールズ・テイラー 思想の淵源』は、ヘーゲル研究の大家である現代のカナダの哲学者チャールズ・テイラーの社会、政治、宗教に関する哲学的考察の内、「多様に異なる人々と共に生きるためには、平等や中立といった概念をどのように捉えなおすべきか」という観点に絞って、本科研の研究成果も含めたテイラーに関する拙論および書下ろし文章をまとめて一冊の著作にしたものである。特に邦訳の存在しない報告書『民主主義への道』でテイラーが論じるタイ王国への民主主義導入の試みにおいては、西洋社会の理論を東洋に根付かせるために重要なポイントが論じられており、その内容をコンパクトにまとめて日本語で提示したのは拙著が初めてとなる。これらの平等についての議論は本科研のテーマである「合理的配慮」の理解を深めるのに欠かせない論点となるであろう。 第二に去る1月に新居浜工業高等専門学校紀要第60巻にて「ジェンダー問題としての新居浜高専部活動における女子マネージャーの実態」という論考を掲載している。本科研テーマからは一見逸脱しているようにも見えるが、実際には平等および少数派への配慮の正当性についての議論は同じ構造であり、本科研のテーマが幅広く応用可能であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研のテーマは、障害学生に対する「合理的配慮」の倫理的正当性を主軸とする新たな「障害理解教育」カリキュラムの開発であり、現在の進捗として、これまで以下の研究実績を積み重ねてきた。①濱井潤也「チャールズ・テイラーにおける世俗化の「長征」から読み解く「生きる意味」の奥行」『ぷらくしす』、広島大学応用倫理学プロジェクト研究センター、第23号、2022年、②濱井潤也、小川清次、高橋祥吾「障害学生に対する合理的配慮を健常学生はどう見ているのか?Ⅱ-合理的配慮をする側の障害理解カリキュラム開発に向けて-」新居浜工業高等専門学校紀要第59号、2023年、③ミヒャエル・クヴァンテ、(編集:後藤弘志、訳:池辺寧、岡本慎平、桐原隆弘、中西捷渡、野村卓史、硲智樹、濱井潤也)、『人間の人格性と社会的コミットメント』、リベルタス出版、2023年、④濱井潤也、『チャールズ・テイラー 思想の淵源』、春風社、2023年、⑤濱井潤也、「ジェンダー問題としての新居浜高専部活動における 女子マネージャーの実態」新居浜工業高等専門学校紀要第60号、2024年 本科研の採択期間4年の内3年目が終了したが、現在の進捗状況としては、複数高専での「合理的配慮」に関するアンケート調査を実施し、新居浜高専単独の調査より確度の高い形で結果を紀要論文として公表した。その結果を受けて現在は実際に学生にカリキュラムの実施とその反応を調査しており、すでに十分なデータが集まっている。加えてこのカリキュラムの理論的骨子としての平等をめぐる政治哲学的議論を著作の出版という形で深め、加えて紀要論文としてジェンダー領域へ横断的に展開させている。残すは最終結果の査読論文という形での公表であり、最終年度を残しての進捗としては「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研のテーマは「合理的配慮」への倫理的正当性の理解を基軸とした新たな「障害理解教育」カリキュラムの開発・実践であるが、現在の進捗状況としては「合理的配慮」に対する学生たちの意識調査を終え、学生たちの考え方の類型に沿って授業教育カリキュラムを開発した。カリキュラムに関してはブラッシュアップを行いながら過去3年間新居浜高専の1年生を対象に実施しており、カリキュラム受講前に「合理的配慮」の典型例をどのように理解しているかのアンケート調査と、カリキュラム受講後にどのように考え方が変わったかのアンケート調査を実施している。加えて本科研のテーマの片翼を担う平等・不平等の問題をめぐる政治哲学理論の研究に関しては、昨年2月に春風社より『チャールズ・テイラー 思想の淵源』という著作として出版し、また「合理的配慮」の倫理的正当性に関する議論と同じ構造をジェンダー問題に適用する形で所属する新居浜高専の部活動における女子マネージャー問題を調査、分析する紀要論文を執筆した。 本科研最終年度に当たる今年度は、これまでに蓄積した開発カリキュラムの実施に伴う事前、事後アンケートの結果を分析し、まとめて「障害理解教育学会」への査読論文として投稿することである。障害者とのコミュニケーションや障害者の立場に立つことを主軸としてきた従来の「障害理解教育」では、同情や優しさに理解の基盤を置くことになりがちだが、それでは障害者が特別扱いを受けているという肝心の誤解が解消されない。「合理的配慮」の倫理的正当性を主軸としたカリキュラムの実践によって、より良い障害理解が進むことを示したい。
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Report
(3 results)
Research Products
(7 results)